旅行業界最大手のグローバル企業であるJTBだが、実は地域交流事業やソリューション事業など、旅行業以外の事業も手がけている。しかし、そうした事業についての認知度はあまり高くないのが実情だ。

 そこでJTBは2023年4月、事業ドメインの認知を「旅行事業」から「交流創造事業」にシフトさせるべく、35年ぶりのリブランディングに取り組んだ。並行して進めている事業変革とブランド再構築の両施策についてJTB執行役員CMO・風口悦子氏が語った、講演の骨子をお届けする。

※CMO:チーフ・マーケティング・オフィサー、マーケティングにおける最高責任者

※本稿は、2024年6月に配信された「第13回 マーケティング&セールスイノベーションフォーラム」における「特別講演『新』交流時代を切り拓くJTBの挑戦/風口悦子氏」をもとに制作しています。

JTBがリブランディングを行った2つの理由

 旅行会社として圧倒的な知名度を誇るJTBだが、実際の事業は旅行業だけにとどまらない。そのため、JTBでは現在、事業ドメインを「交流創造事業」としている。

 JTBの交流創造事業とは、「地球を舞台にあらゆる交流を創造し、人々の感動・共感を呼び起こす」事業のことで、具体的には主に次の3つの事業を指す。

  • ツーリズム事業:個人・法人(産官学)の旅行や交流体験を扱うもの
  • エリアソリューション事業:観光DXや観光地整備・運営など地域活性化を図るもの
  • ビジネスソリューション事業:MICE運営、人材ソリューションなど企業のコミュニケーションの課題解決を図るもの

※MICEとは、Meeting、Incentive travel(またはtour)、Convention、Exhibition(またはEvent)の頭文字をつなげた造語で、企業の会議や研修旅行、国際会議、展示会などのビジネスイベントの総称のこと。

 こうした事業を展開するJTBが、2023年4月よりリブランディングに取り組んだ。その背景には2つの大きな理由がある。

 1つ目は、2020年に発生した新型コロナウイルス感染症の拡大による影響だ。国内外の旅行が控えられるようになったことで観光産業は大打撃を受け、JTBも売り上げの7割が一気に消失するという創立以来の危機に直面した。

 そうしたタイミングで、2020年に山北栄二郎氏が代表取締役社長に就任。アフターコロナの新たな価値観を踏まえ、“地球を舞台に「新」交流時代を切り拓く”、というビジョンを掲げた2028年までの中期経営計画が打ち立てられた。

 この「新」交流創造ビジョンの実現に向けて、リブランディングが図られることとなる。

 2つ目の理由は、JTBの交流創造事業のうち旅行業以外の事業が、ブランドイメージとしてほとんど認知されていなかったことだ。

 JTBブランドがどのように捉えられているか、2020年に社内外で調査をしたところ、旅行事業については約50%の認知度がある一方で、旅行以外の事業の認知度は約5%と低いことが分かった。

「私たちのありたい姿と、社会から認知されているJTBのイメージには大きな差がありました。この差をリブランディングで埋めることが急務だと考えました」と風口氏は言う。