創業当時の顧客に寄り添うアプローチを、デジタルの時代に再現したい――1to1マーケティングの実現を目指して、DXに舵を切ったツルハグループ。しかし、取り組みを進める中では、多くの壁を越える必要があった。経営戦略本部長と情報システム本部長を兼任し、グループのDXを強力にけん引してきたツルハホールディングス執行役員小橋義浩氏が、「データ活用の壁」とその乗り越え方について、語った。
※本稿は、Japan Innovation Review主催の「第16回 リテールイノベーションフォーラム」における「特別講演:ツルハグループのデータ活用~データインフラがもたらすDXの加速/小橋義浩氏」(2024年6月に配信)をもとに制作しています。
顧客接点拡大とデータドリブンを実現させたツルハグループのDX
「ツルハドラッグ」をはじめ、6つの事業会社、5つのブランド、2653店舗(2024年5月15日時点)を日本全国に展開するツルハグループ。2024年初めにはウエルシアホールディングス、イオンと経営統合に向けて合意したことを発表しており、アジアNo.1のドラッグストア連合体を掲げて動き出している。
実は小橋氏は、2022年にもツルハグループのDXをテーマとしたJapan Innovation Review主催のイベントに登壇している。その際には、「デジタルシフト」を提唱してツルハグループアプリを開発し、アナログの顧客接点をデジタルに移していったこと、分散した顧客データを一元管理するためのCDP(Customer Data Platform)とも呼ばれるデータ基盤、「TIDE(タイド)」の構築に着手したことなどが語られた(下図)。
2019年にリリースしたツルハグループアプリは、2022年時点で500万ダウンロード(DL)を達成。2024年直近では960万DLを超え、1000万DLが目前となっている(講演時点。2024年9月に1000万DLを突破)。また、2023年6月には念願の自社決済サービス「HAPPAY(ハッペイ)」をローンチした。
こうしたデジタルサービスの拡充は、顧客の利便性を向上させるだけではなく、クーポンや決済サービスの利用状況など、より多様なデータの収集を可能にする。「どのような販促に対して、どのようなお客さまが、どう反応しているのか。こうした情報を幅広く取ってTIDEに集約し、分析して、新たな販促につなげるというサイクルができ始めています」と、小橋氏は手応えを語る(下図)。
しかし、グループ全体にデータ活用のための共通認識を根づかせ、構築した仕組みを使いこなすまでには、さまざまな壁があったという。
「組織のつくり方、機能の置き方の重要性など、さまざまな気づきを得ながら、一歩ずつ進んできました」と振り返る小橋氏。ツルハグループが直面した「データ活用の壁」とその乗り越え方について語った講演の中から、その骨子をお届けする。