生産と在庫投資の意思決定に関する延期―投機の説明は、矢作氏の事例と理論的説明が明快である。延期は、ある商品の形態決定と在庫投資が引き延ばされ、購買需要の発生する直前や、購買需要が実際に発生した時点で行われる。これに対して投機は、それらの決定が事前に行われる。このため、延期化でできるだけ不確実を減らすのである。これには、直前の顧客情報の把握が役に立つ。
セブン・イレブンでは、できるだけ実需に併せて対応する。この戦略は、投機の延期化の考え方に沿う。膨大なデータ処理で直前や過去の購買行動について整理して、それぞれ必要なデータがメーカー、配送センターに速やかに配信され注文される。「店舗が必要なときに納品する」というのが原則である。
1日に数回配送している、米飯関連、チルド関連の商品の納品形態については、それぞれ「最もニーズの高い時間帯」に合わせて納品を実施している。このように注文時刻に合わせて製造も行っており、製造タイムスケジュールが定められている。
店舗で購入するお客さんの時間帯に商品を提供するため、川下から川上に向かって、すべてのスケジューリングがなされ、理論的には、投機の原理にもとづいている。発注精度を上げ、配送の効率を上げるために、「仮説」を立て、リアルデータで検証、実行することが行われている。
また、製造数を決定する店舗による発注は、発注から納品のリードタイムが最も短くなるよう、納品便ごとの発注締切り時刻が決められている。規模の経済の発揮も、これによって実現している。昼食用の納品時刻は、8時~11時なのに対して、納品便の発注締切り時刻は、最終的には前日の18時である。
前日の営業中、日中の商品動向を確認し、17時に気象庁などから発表される翌日の天気予報の最新版をチェック、さらに、近隣で開催される催し物などの情報も確認し、最終的に18時を翌日昼便の納品数量最終発注締切り時刻としており、機会ロス、廃棄ロスを削減している。このように店舗の営業状況と発注、メーカーの製造と物流が一体となって、店舗への納品がされている。消費者ニーズ起点のロジスティクスを最も先進的に取り入れているといえる。
セブン・イレブンの2番目の特徴は、店舗での受け入れや、納品に関する作業を効率化することである。24時間の営業中に、配送センターからの納品作業が行われると、納品作業とレジ接客が同時に発生する。さらに、商品は、商品管理温度や販売期限時刻が厳格に定められている。
前工程の物流段階で、後工程の納品作業がしやすいようにしており、それぞれの商品によって専用の通い箱に仕分けて、商品配送を行っている。通い箱による納品により、商品の検品や陳列棚、オープンケースへの陳列作業が効率化されている。配送センター自体も、最近ではデジタル・ピッキング、電子化した受注伝票で効率を上げている。
<連載ラインアップ>
■第1回 人口減少、経済停滞が続く日本で、なぜコンビニ業界は健闘し続けられるのか
■第2回 セブン-イレブン、ローソン、ファミリーマート…各社の戦略に見る特徴と課題とは?
■第3回 セブン-イレブンの店舗では、なぜ必要なタイミングで必要な量の商品が適切に並ぶのか?(本稿)
■第4回 コスト削減・低価格が目的ではない、セブン-イレブンが掲げる独自のPB戦略とは?(11月12日公開)
■第5回 ローソン、ファミリーマートがセブン-イレブンを追撃、大手3強時代はいかにして訪れたか?(11月19日公開)
■第6回 大手コンビニもかなわない、北海道で絶大な支持を誇る「セイコーマート」の人気の秘密とは?(11月26日公開)
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