「でもな。そういう気持ちは黙っていても相手に伝わるということだ。お前は安岡に『申し訳ない』と口では言っていたが、『ちっとも申し訳ないとは思っていない』というのが横にいた私にも伝わってきたぞ。そういうつまらないことで損をするな。私は営業からいまの部署にきて、こちら側から営業を見ることで、そういうものがあることがわかった。同時に自分が随分と損をしてきたことがわかったんだ。いいか、一緒に仕事をしている者をそういう目で見るんじゃない。相手の仕事を大事に思えば相手もこっちを大切に扱ってくれる。それがお前の大きな助けになるかもしれんぞ」

 自分ではそんなことを思っていないつもりですが、言われてみれば「こちらの苦労も知らないで…」とか「指示されたことをやってくるだけだろう…」といった気持ちがなかった訳ではありません。とはいえ感情的なものなので、頭で理解しても相手を大事に思うにはどうすればいいのかわかりません。

「まぁ、話を聞いてみることだなぁ」

 曖昧な一言を残して吉永さんは会議室を出て行ってしまいました。

 機材の修理・設置部門の部屋は営業とは少し離れたところにあります。いままではあまり行くことはなかったのですが、その後はなるべく顔を出して話をするようにしました。最初のうちは通り一遍のあいさつ程度でしたが、徐々に踏み込んだ話もできるようになります。

 そのうち彼らも、機材の故障対応に伺った際の得意先の様子や彼らの部署ならではのネットワークから得た情報を教えてくれるようになりました。何よりも私の得意先や私が開拓したところをしっかりサポートしてくれるのです。

 仕事なのでどこの取引先も同じように対応するのが当然ですが、なんとなく以前よりも良くなっているように感じます。社内で上手く立ち回ろうという訳ではないのですが、「社内営業」という言葉の意味とその大切さが少しわかったような気がしました。

 私の営業は、こういった社内連携の力、社外の人たちとのネットワークの力で少しずつ変わり、成績も徐々に上向いてきたのです。

 そして、私がフードサービスに異動した翌年、日本コカ・コーラ社主催の全国セールスフォースコンテストがあり、その第一位になることができたのです。前述の司厨士協会の方々や修理・設置部門の人たち、それに周りの多くの人に助けてもらったおかげです。

 商談における交渉力よりも「人に助けてもらう力」のほうが営業では大切なのかもしれません。

<連載ラインアップ>
第1回 「コカ・コーラを日本一売った男」が、上司のひと言で気づいた新規開拓のコツとは?
第2回 持てる資産を全て生かせ! 日本コカ・コーラのアメリカ人副社長から学んだ「組織営業」の極意とは?
■第3回 日本コカ・コーラのセールスコンテストで日本一をとった男が、「社内営業」の大切さを知った“長老”の苦言とは(本稿)
■第4回 アイデアは10分で出す、日本コカ・コーラの上司から学んだ仕事をスピーディに進めるための原則とは?(10月23日公開)
■第5回 日本コカ・コーラで学んだ、仕事の成否を大きく左右する「6つのステップ」とは?(10月30日公開)
■第6回 組織の機能を使い切るには? 四国コカ・コーラ ボトリングで気付いたシンプルな「組織営業」の基本(11月6日公開)

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