「申し訳ありません。詰めが甘かったのかもしれません。もっと、相手に確認しておくべきでした」

 こちらとしても言いたいことはありますが、ここはぐっと我慢です。その時の私は謝りの言葉とは裏腹に憮然とした顔をしていたようです。

 その一部始終を吉永さんが見ていました。吉永さんは何年も前に身体を壊して、営業から機材の修理・設置部門に異動になったいきさつがあり、いまではちょっとした長老的な存在になっています。

「ちょっといいかな」

 奥の会議室まで一緒に来いと目で合図します。

「やれやれ、小言でも聞かされるのかなぁ」

 吉永さんに続いて会議室に入り、パイプ椅子に腰を掛けます。はす向かいに腰を掛けた吉永さんが、テーブル越しに話し始めます。

「俺は不本意ながらいまの部門に異動になったんだが、人とは違ったものがわかるようになった。それが何かわかるか」

 突然言われても、返答はできません。黙って吉永さんの話を聞くだけです。怪訝そうな表情の私に次の言葉が続きます。

「仕事には優劣とか上下はないもんだが、どうも同じ会社で仕事をしているにもかかわらず、そういう意識が見え隠れする時があるということだ」

「別に、私はそんなことは思っていませんが…」

 ひとまず返事をします。少し上を向いて、吉永さんが続けます。

「そうかもしれんが、営業は『本社の企画がダメだから売れる訳がない』とか、本社で勤めている連中は『営業がしっかりやらないから売れるものも売れない』とか言いながら、自分のことを棚にあげて自分の都合でモノを言う。俺も営業時代は『機材修理や設置の担当者は言われたことをさっさとやってこい。俺たちが苦労して契約してきたものを指示通りにやるのが当たり前だろう』という気持ちだった。いわば彼らを少し下に見ていたのかもしれんな。ここのみんなは営業の連中と違って気の利いたことを言える訳でもないからなぁ」

 さらに話が続きます。