法政大学 キャリアデザイン学部 教授の田中研之輔氏(撮影:今祥雄)

 社員の捉え方が「資源」から「資本」へ、キャリア形成の主体が組織から個人へと変化するなか、企業はどのように採用戦略を取るべきだろうか。人的資本経営の研究者であり、民間企業のCHRO(Chief Human Resource Officer)も務めている法政大学教授の田中研之輔氏が語る、人的資本経営時代の採用戦略とは――。

※本稿は、Japan Innovation Review主催の「第4回 採用改革フォーラム」における「基調講演:人的資本経営とこれからの採用戦略/田中研之輔氏」(2024年6月に配信)をもとに制作しています。

 田中教授は「プロティアン・キャリア」理論に基づくキャリア開発を推進していることで知られる。プロティアン・キャリアとは、「キャリアは会社に属するものではなく、個々人に属する」という、1976年に米国心理学者のダグラス・T・ホールが提唱した考え方だ。田中教授はこれをアップデートし、「現代版プロティアン・キャリア」として推奨する。

 以下では、田中教授が、人的資本経営とこれからの採用戦略について語った講演の骨子をお届けする。

社員は「資源」から「資本」へ 、必要な採用戦略とは

 最初に、なぜ今「人的資本経営」を取り上げるのか、それが採用戦略にどう結びつくのかについて、これまでのHRの歴史的変遷を振り返りつつ、お話したいと思います。

 HRのトレンドを見ると、昭和の時代には、人材を「資源」と考える「人的資源管理」が主流でした。平成に入ると、それが経営戦略に沿って進めていく「戦略的人的資源管理」へと発展します。

 そして現在の令和では「人的資本」、つまり社員はコストではなく投資の対象、資本であるという考え方へと大きく転換しました(下図)。

 それに応じてキャリア論についても、組織内での昇進を図る伝統的な考え方から、個人の人的資本を最大化する考え方に変わってきました。このような新しいキャリア論に基づいて作成される採用戦略もまた、一人一人の人的資本の価値を高めていくものとなっています。

 ポストコロナのもとで経済の再活性期を迎えている現在、求められている採用の在り方、採用戦略とは、一人一人の人的資本の最大化を実現することといえるでしょう。

 そして、その採用戦略の目的、目指すゴールとは、採用というフローを通じて「個人と組織の持続的成長」を作り出していくことだといえます。