企業が人的資本経営に力を入れている昨今、その成否を握るのが人材であることは言うまでもない。2024年6月11日にオンラインで開催された「第7回 戦略人事フォーラム」では、HRテクノロジーの第一人者としても知られる慶應義塾大学大学院特任教授の岩本隆氏と、デフィデ株式会社CEOの山本哲也氏による興味深い対談も行われた。セッションのタイトルはまさに「自律型人材の育成が人的資本経営の成功の鍵」。日本企業の課題である、従業員の自律性の弱さ、意識を変える必要性、そのための「キャリアモデル」などの打ち手などが議論された。以下で、セッションの内容を振り返ってみたい。
「HRテクノロジー」をバズワード化させた第一人者
慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 特任教授の岩本隆氏は、外資の複数のテクノロジー企業、戦略コンサルティング会社のドリームインキュベータなどを経て2012年6月より慶應義塾大学大学院 経営管理研究科 特任教授、2022年12月より同・政策・メディア研究科 特任教授を務める。
岩本氏は「HRテクノロジー」という言葉を日本に最初に広めたことで知られる。今でこそ、人的資本経営の実現のために欠かせないとされる「HRテクノロジー」だが、岩本氏がその概念を紹介するまではほとんど認知されていなかったのだ。その後バズワード化したのは周知のとおりだ。最近では、著書「人的資本経営 まるわかり (PHPビジネス新書) 」が、これ1冊で人的資本経営の全体像がわかる入門書としてヒットしている。
山本哲也氏がCEOを務めるデフィデ株式会社は、HRテクノロジー、FinTech、AIソリューション、DXコンサルティング、DX開発などを手掛けている。中でも、日本企業に最適化したジョブ型タレントマネジメントを可能にする人事制度改革プラットフォーム「JOB Scope(ジョブ・スコープ)」を提供し注目されている。
「JOB Scope」は、経営理念から組織・職務定義の上、採用・配置・キャリア開発、目標管理・1on1フィードバック面談・評価・賃金査定・サーベイ・評価分析が包括的かつシームレスに連動するタレントマネジメントサイクルを実現する。無料で購読できる「JOB Scopeメールマガジン」では、人事改革支援につながるアカデミアの有識者へのインタビュー記事が毎週届くとあって、経営者や人事パーソンに高く評価されているという。岩本氏へのインタビューも「JOB Scopeマガジン」に掲載されている。
ボトルネックとなる日本特有の「金太郎飴型」人材を生むマネジメント
人的資本経営に関心が集まっている一方で、なかなか成果につながらないと悩む企業も多いようだ。その理由について岩本氏は「人的資本経営を進めるにあたってハマりやすい落とし穴があります。ボトルネックになっているのは日本特有の『金太郎飴型』の人材を生むマネジメントです」と語る。
岩本氏によれば、日本企業はこれまで、春入社の新卒の大卒を採用し、どの従業員も同じように育成してきた。年功により給料も上がっていった。ただしこれらのマネジメントを続けた結果、日本企業は欧米企業に後れをとった。特に生産性の観点では、失われた30数年と呼ばれるほど、大きく水をあけられることになったのである。
「最近になって生産性の向上に取り組む企業も出てきました。しかし、それは『金太郎飴型』のマネジメントではなかなか難しいところです。人的資本経営とは、一人一人のパフォーマンスや能力を最大化させることにほかならないからです」と岩本氏は指摘する。
企業の中にはパフォーマンスの高い社員には若手社員であっても高い報酬を出すといった制度を導入するところもある。「ただしベテラン社員にとっては、入社時には給与が低く抑えられていたにもかかわらず、その後、成果主義になって給与の上昇が抑えられるといったことになれば、不満につながりかねません」と岩本氏は語る。
山本氏は、人事制度改革プラットフォームの提供などを通じて日本企業に最適化したジョブ型タレントマネジメントの導入支援などを手掛けている。「生産性の向上に向け『HRテクノロジー』を利用する企業も増えています。エンゲージメントサーベイを実施したり、ジョブディスクリプション(職務定義書)を策定したりするところもあります。さらにジョブ型人事制度を導入する企業もあります。ただしなかなか成果につながりません。それは施策を導入することが目的になっており、本当の意味での改革につながっていないからです」(山本氏)。
従業員一人ひとりを「自律型人材」に
真の人的資本経営を実現するには何が必要なのか。その問いに対して岩本氏は「これまでのように、会社が用意したキャリアに沿っていくだけでは一人ひとりのパフォーマンスは上がりません。個々人が自律し、自分でキャリアを形成していくことが大切です。イメージとしてはプロスポーツの世界に近いですね」と答える。各自のパフォーマンスを高めながらチームとしてのパフォーマンスも向上させていくわけだ。
山本氏も、「ダイバーシティー&インクルージョン(多様性と包摂性)を重視するといいながら、採用や育成が『金太郎飴型』でゼネラリストを育てるような制度では本末転倒です」と語る。
Z世代と呼ばれるような若い世代の人材が自律型に成長するためにはどのような取り組みが求められているのか。岩本氏は「すべての従業員が自律的に活躍できるようなカルチャーを作ることが重要です。極論すれば、自律していないと居心地が悪いといった風土を作っていくことです」と話す。
従業員一人ひとりが自律型になっていくためにはHRテクノロジーの活用も有効だという。「若手社員が目指すキャリア形成のためにどのようなスキルを身に付けるべきなのかをAI(人工知能)でアドバイスするようなツールも登場しています。1on1フィードバック面談などでもテクノロジーを活用し、マネジメントが属人的にならないよう、サポートするような仕組みもあります」(岩本氏)。
山本氏は「テクノロジーは目的ではなくあくまでも手段にすぎません。従業員の意識を変えるにはウェルビーイングなどの観点も大事だと思います」と加える。
「キャリアウェルビーイング」が従業員の幸福度に寄与
岩本氏は、「米ギャラップはウェルビーイング(心身の健康や幸福)を構成する5つの要素として『キャリアウェルビーイング(仕事)』、『フィジカルウェルビーイング(身体)』、『ソーシャルウェルビーイング(人間関係)』、『フィナンシャル・ウェルビーイング(経済)』、『コミュニティウェルビーイング(地域)』と定義しました。(注1) 私はこの中でも、『キャリアウェルビーイング』が従業員の幸福度に大きく寄与すると考えています。なぜなら、人は仕事に対して人生の多くの時間を費やすからです。仕事が幸せであれば人生も幸せになるでしょう」と話す。ウェルビーイング経営という言葉もあるが、特にキャリアにフォーカスすると成果につながりやすいと岩本氏は指摘する。
(注1)Gallup社 「The Five Essential Elements of Well-Being」より
自社ならではの「企業は人なり」を振り返る機会を
セッションの結びにあたって、山本氏が「人的資本経営を進める上で明日からできるアクションがあれば教えてください」と岩本氏に尋ねた。
それに対して岩本氏は「『企業は人なり』と言いますが、単に雇用を守るといった意味でこの言葉を使っている企業が少なくありません。本来の『企業は人なり』とは、一人ひとりが活躍して成長することで企業が成長するという意味です。その定義に立ち返ったときに、皆さんの会社はどうなのか、改めて考え直していただくことが重要なだと思います」と答えた。
山本氏は「JOB Scopeマガジン」では岩本氏のインタビューのほか、有益な情報を提供しており、「自律型人材の育成を通じて人的資本経営を実現したいと考える人事担当者や経営者にぜひ利用してほしい」と語った。
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※岩本特任教授のほか、学習院大学 守島教授や慶應義塾大学 清水教授など、人事改革支援につながるアカデミアの有識者へのインタビュー記事が多数掲載!
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