歴史的にみると、インターネットを前提としたサイバー空間が安全保障のための舞台になると認識されはじめたのは、わずか20年前のことである。2000年以前にはインターネットは大学・研究機関やIT関連企業を中心に普及していたが、社会インフラ基盤としての認識はまだほとんどなかった。

 サイバーセキュリティの初めての民間研究組織としてカーネギーメロン大学にCSIRT(Computer Security Incident Response Team )の起源、CERT/CC(Computer Emergency Response Team/Coordination Center)が設立されたのは1988年である。

 最初の議論はY2Kというイベント、年号が1999から2000になるときに、下2桁で年を認識していた一部のソフトウェアの不具合を予想した改修運動が起こったときだった。金融機関のソフトウェアにこの傾向があったために、金融インフラの危機が認識された。

 SF映画ではコンピュータの異常が世界で発生して地球が滅亡するというものもあった。だがこれはまだSFの世界だった。2001年9月11日には米同時多発テロが発生した。これを機会に米国は3つの重要な政策的判断をした。

 1つはこのテロの指示が電子メールを利用したことを認識したことである。

 2つ目は(実行した航空網からの米国の遮断のように)グローバルなインターネットからの米国の孤立がすでに米国経済の破綻となるという分析をした上で、サイバーセキュリティに関する安全保障上の国家レベルでの関与を決定したことである。

 3つ目は、従来の国防の概念に加えて、国と国民の安全を統合的に守るための組織、DHS(国土安全保障省)を設立し、その中に、サイバー空間での情報やセキュリティの役割を定義したことである。それから20年、世界の経済はデジタルデータを利用する米国起源のグローバルインターネット産業の時代となり、経済の発展と、分断や対立を含む新しい国際社会へと突入した。

 2020年からの歴史的な経験を踏まえ、国際社会はサイバー空間以前の経済と安全保障の体制に加えて、グローバルにつながるインターネットによるサイバー空間が完全に重なりあった新しい経済と安全保障の体制を確立する必要がある。我々はこの歴史的な期間に、従来には認識しにくかったサイバーセキュリティの課題に直面した。

 サイバー空間は人類共通の1つの空間であり、その空間の利点をどのように利用するかがデジタル社会やそれを前提とした新しい社会の発展であり、一方、その空間を基盤として利用する犯罪や攻撃にどのように対応し、個人と国土、さらには、この惑星の安全を守るか、この統合的な領域が経済安全保障におけるサイバーセキュリティの本質的な役割である。