■ マーケティング4.0以降に顕在化したファンの重要性

 ファンが市場をつくっていく――という現象は、特に「マーケティング4.0」以降に強く見られる特徴だ。デジタル技術の普及により、消費者自身が情報発信者となり、自らの好きな商品やブランドについてSNSなどで意見を発信し、それがバズることで大きな影響力を持つようになった。

 マーケティングが目指すのは、売れる仕組みを開発し、継続させていくことだ。X(旧ツイッター)のハッシュタグ(♯)でファン同士が気軽につながり、共通の推しについて盛り上がれるのが現代。ソーシャルメディア時代における企業とファンの関係性はさらに強まっている。

 グミのように、特定の商品やフレーバーがSNSで話題になり、短期間で大きな市場の動きを生んだり、消費者からのフィードバックや要望が直接メーカーに届き、それが新しい商品開発につながったりすることも増えている。こうした動きは、消費者やファンが市場の動向を主導する現象としてとらえられ、結果として市場拡大をけん引する。

 グミ市場は、こうしたファンに支えられている。「地球グミ」のような一過性のヒットもあるが、きちんと定番商品があるのはファンの存在があるからにほかならない。

 消費者主体の市場では、企業側も消費者とのコミュニケーションを重視し、より緻密に市場の動きを捉える必要がある。ファンやコアな消費者と強い結びつきを持つことで、持続的な市場の拡大を期待できる。

■ 2割の優良顧客が、売り上げの8割を支える

 ファンの気持ちに寄り添い、愛着を深めるために、SNSを活用する日々の接点は重要である。佐藤尚之は、その著書『ファンベース』で、ファンを大切にし、ファンを基盤として中長期的に売り上げや商品の価値を高める重要性を説く。「パレートの法則」にあるように、2割の優良顧客が、売り上げの8割を支えているという現実があり、強い支持者は、新たなファンをも呼び込む。昨今では、社会の課題を踏まえながら、多様な主体が「共創」をして新たな価値を創出することが期待され、ファンは共創の一翼を担う。

 一方、ファンと消費者は違う。消費者は製品そのものに目を向けるが、ファンは「製品が意味すること」に注目する。企業の志(パーパスやビジョン)や、未来へ向かう「物語」が共感を呼び起こす。成功しているブランドには、顧客が参加できる物語があり、ファンと消費者を分けるのは、そのブランドに関わる自らの関与の度合いだ。だから、米国のバイクメーカー、ハーレーダビッドソンの「ファンミーティング」のような場が求められる。

■ ファンを裏切らない姿勢

 ファンは気まぐれでもある。夢中になっていたかと思えば、熱が冷めるときも訪れる。企業を応援することに喜びや幸せを感じ、一緒にいてくれる状態をどう維持すればよいのだろうか。「お客様は神様」と言われるが、ファンは違う。熱心なファンによって企業やブランドが“炎上”の対象になれば、ダメージは計り知れない。そのさじ加減は、技術や技法ではなく、ファンを裏切らない姿勢だ。大手芸能事務所の元社長による性加害問題も裏切り行為のひとつだった。

 大切な人に思いをはせ、共に成長しながら、新たな価値を創造して幸せをもたらす。そんな企業やブランドが支持されることは間違いない。

<連載ラインアップ>
第1回 急拡大するグミ市場の陰で、明治はなぜガム市場からの撤退を決めたのか?
第2回 明治「果汁グミ」「コーラアップ」はなぜ多くのロイヤルユーザーを獲得できるのか?
第3回 SNS発の大ヒット商品「地球グミ」は、なぜZ世代の心に刺さったのか
第4回 カンロが「ピュレグミ」「カンデミーナ」「マロッシュ」で使い分ける“情緒的価値”とは?
第5回 ガムの主力ブランドがグミに“転生”、明治「キシリッシュグミ」が狙うユーザー層とは?
■第6回 ファンが市場拡大をけん引、SNS時代のグミ市場を取り巻く「マーケティング4.0」(本稿)

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