スペースXの新型スターリンク衛星「V2 mini」。ⒸSpaceX

 民間企業によるロケット開発、人工衛星を利用した通信サービス、宇宙旅行など、大企業からベンチャー企業まで、世界のさまざまな企業が競争を繰り広げる宇宙産業。2040年には世界の市場規模が1兆ドルを超えるという予測もあり、成長期待がますます高まっている。本連載では、宇宙関連の著書が多数ある著述家、編集者の鈴木喜生氏が、今注目すべき世界の宇宙ビジネスの動向をタイムリーに解説。

 第7回は、スペースX、アマゾン、そして日本の大手通信会社も参入して熱を帯びる、「衛星通信ビジネス」の最新動向を紹介する。

通信衛星とスマホが直接つながる

 宇宙を舞台とした民間ビジネスが巨額の利益を生みつつある。その筆頭に挙げられるのが、衛星とスマートフォン(スマホ)をダイレクトにつなぐ通信事業だ。

 通信衛星を使用した高速通信サービスは、すでにスペースXが「スターリンク」を世界100カ国以上で展開している。このサービスでは小型衛星を地球周回軌道上に数千機配備するため、どこにいても高速通信が利用できるが、その利用には専用アンテナ(513×303mm)が必要となる。

 しかし今、各社が準備を急ぐシステムでは、大きな専用アンテナを使用することなく、スマホと通信衛星をダイレクトにつなぐ。これが実現すれば基地局の有無にかかわらず、空さえ見えればどこにいてもスマホが高速回線につながり、移動しながらでもデータのロードが可能になる。

 圏外エリアでもスマホが利用でき、山や海、被災地での緊急時にも役立つだろう。事業者にとっては基地局の新設とメンテナンスにかかるコストも大幅に圧縮できる。

 現在、この次世代型の通信インフラの整備が、各国の衛星運用会社と、国内の通信事業会社によって急ピッチで進められている。そのためスマホとの直接通話を可能とする高出力な通信衛星を載せたロケットが、週2機以上のペースで打ち上げられている。

国内通信大手とアマゾンの動向

ASTスペースモバイルの試験衛星「ブルーウォーカー3」のアンテナ部分。2022年9月10日に打ち上げられた同機により、地上との高速通信に成功している。ⒸAST SpaceMobile

 KDDIは2023年8月、イーロン・マスク氏率いるスペースXと提携し、スターリンク衛星によるスマホとの直接通信事業を2024年中に開始すると発表した。ただし、スターリンク衛星の打ち上げ配備の遅延や、7月12日に発生したファルコン9ロケットの事故調査などを理由に、同サービス開始は2025年にずれ込むと思われる。