住友商事 執行役員 人事担当の中澤佳子氏(撮影:川口紘)

 住友商事が人事制度の改革を次々と行っている。年次主義の制度を撤廃し、職務等級制度と絶対評価を導入。また、2024年度からは新たな新卒採用選考も行っている。これらの取り組みをけん引する住友商事 執行役員 人事担当の中澤佳子氏は、英製薬大手のグラクソ・スミスクライン、フィンランドのノキア、独シーメンスで人事責任者を務めた経歴を持つ。同氏に人事改革の中身を聞いた。

社員の理解を得るには「丁寧なコミュニケーション」に尽きる

――住友商事ではさまざまな人事改革を進めています。どのような理由からスタートし、具体的にどんな取り組みを行っているのでしょうか。

中澤佳子/住友商事 執行役員

慶應義塾大学卒。米人事コンサルティング、タワーズペリンに入社、ニューヨーク等で勤務。その後、新生銀行にて組織開発、金融商品マーケティング等に携わる。英製薬グラクソ・スミスクラインで人事戦略責任者、フィンランド通信・ネットワーク ノキアで日本・東アジアの人事責任者、独コングロマリット シーメンスで執行役員人事本部長を務める。2023年4月住友商事入社、現職。

中澤佳子氏(以下敬称略) 当社は2020年度の最終損益が赤字になったこともあり、2021~2023年度の中期経営計画では、事業ポートフォリオの見直しや資産の入れ替えといった基盤固めを進めてきました。これらを経て体制が整いつつあり、2024年度からの3年間は「守りから攻め」へのモードチェンジの時期と位置付けています。新社長にも上野真吾が就任し、次のステージを目指している状況です。

 こうした中で、人事面の取り組みにも着手してきました。まず2023年度までの3年間は、経営基盤を固める一施策として「人的資本の強化」を進めてきました。

 具体的に行ったことはいくつかあります。まず適所適材を実現するため、旧来の年次による管理を撤廃して、職務等級制度を導入しました。社員の評価についても、年次に影響されない「絶対評価」を取り入れています。

 年次主義で管理していると、どうしても同じ入社年度の中で人を比較する「相対評価」になる傾向があります。そうではなく、ラインマネージャーが各社員を1対1の絶対評価で見るようにしました。ポジションごとの職務記述書と照らし合わせて、個人のパフォーマンスを評価します。
 
 その他、当社の新卒採用は、総合職に当たる「基幹職」と「事務職」という二つのパスがありました。これらを一つに統合し「プロフェッショナル職」としました。仮に入社時は事務職を選んだとしても、キャリアを重ねる中で違うフィールドに挑戦したいと考えることもあります。その希望を叶えやすいようにしました。

 私が入社したのは2023年4月であり、これらの取り組みの後半から加わりましたが、制度への理解や定着は進んでいると感じます。

――年次管理の撤廃などは、社員の抵抗やハレーションが起きやすいと聞きます。この点についてはどう考えていますか。

中澤 どのような企業、組織にもあり得ることだと思います。それに対しては、丁寧なコミュニケーションを行うことに尽きるのではないでしょうか。

 当社では、制度の説明会やQ&Aセッション、ワークショップなどを合計200回ほど行いました。また、この制度に関して現場で各社員に伝えるのは直属の上司、すなわちラインマネージャーになります。その方たちへのコミュニケーションやサポートも手厚く行いました。ラインマネージャーから部下の社員にどう伝えれば良いか人事が相談を受けたり、一緒に同席したりもしています。こうした地道なフォローをしていく他ないと思います。

 制度は作って終わりではなく、運用が軌道に乗って初めて意味を成します。実際に若い方や旧事務職の方が管理職に登用される事例も増えてきました。また、エンゲージメントサーベイの結果を見ても、こうした制度変更がありながら、社員のラインマネージャーに対する信頼は高い数値が出ています。成果の出た3年間だと捉えています。