テルモ 経営役員 チーフヒューマンリソースオフィサー(CHRO)の足立朋子氏(撮影:今祥雄)

 医療現場で検査や治療に使う機器、医薬品の製造・販売を行うテルモ。グループ連結売上高9219億円(2024年3月期)の77%を海外で稼ぐだけでなく、社員も約8割が海外に在住するグローバル企業である。M&A企業も含めた組織の意思統一とともに、個々の社員のモチベーションを高め、事業成長を果たすために人事がすべきことは多岐にわたる。取り組みの現在地を、同社CHROの足立朋子氏に聞いた。

社員が長期的に成長できる環境を提供する

――足立さんは長年、ソニーでグローバルに人事を担当された後、2019年からテルモの人事部門に移籍しました。テルモもソニーもグローバル比率が高い企業ですが、日本のグローバル企業の人事における課題とは何でしょうか。

足立 朋子/テルモ 経営役員 チーフヒューマンリソースオフィサー(CHRO)

東京大学文学部卒。1990年~2005年および2010年~2019年にわたりソニー(日米欧)にて、人事制度企画、チェンジマネジメント、組織・人財開発などを推進。2005年~2009年は欧州にて人事コンサルタント業を営み日欧グローバル企業向け人事戦略・施策の支援を行う。2019年よりテルモ株式会社のグローバル人事戦略を企画推進。2023年4月より現職。

足立朋子氏(以下・敬称略) テルモは2021年に創業100年を迎えました。現在は2026年に向けた長期ビジョンとして、デバイス(医療機器)からソリューションの提供によって医療の課題を解決し、患者さんのQOL(生活の質)向上につながるサービスの提供を加速させています。

 テルモは世界160以上の国と地域に医療の現場で使用する製品を販売していて、海外売上比率は77%に達しています。1990年代から、海外企業のM&Aを重ねていることが成長のドライバーとなっており、全部で8つある事業本部の半数は海外に拠点を置いています。

 当社はグループアソシエイト(社員)のうち約8割が外国人という多国籍企業であり、事業体もさまざまな組織の集合体です。そのため、本社の意思をどう各事業体に伝え、納得してもらった上で事業を遂行するかが重要です。そのための人事、人財政策を常に考えています。

 その際、1つ大きなポイントとなるのは、当社の競合にあたる欧米の大手企業とは、事業規模にかなり差があるということです。欧米の列強と同じことを当社がやっても、圧倒的に勝つことはできないし、面白くありません。当社は彼らが提供できないようなユニークさを大切にして、そこを強みに変えていくことが、経営戦略としても妥当性があると考えています。

 人事の面でユニークさはどこにあるか、ということですが、その1つは、当社で働く価値や魅力を明確にし、確認し合う「エンプロイヤーブランディング」の取り組みです。

出所:テルモ「テルモのグローバル人的資本経営」
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 その背景は、当社が日本に本社を置くグローバル企業としての特性もあると思います。海外の企業は、業績が悪くなった事業はできるだけ早期に撤退や売却を考えます。対して日本企業は、ビジネスライクに見切りをつけるようなことをしない傾向があります。これについて、経営としての意思決定の遅さにつながるという指摘もありますが、違った見方もできます。

 当社は患者さんのことを第一に考え、「長期的な視点で事業を進める企業である」と宣言しています。アソシエイトに対しても、当社にいれば、じっくりと仕事ができることを価値として認めてもらえるようにしていきたいと考えています。

 ただ、長期的な視点で仕事を続けるためには、ただ「会社にいられる」というだけでは駄目で、当社にいることで自分の成長につながると感じられることが重要です。そこで、長期戦略として、全アソシエイトに対して「グロースマインドセット」の浸透を推進しています。

 グロースマインドセットとは、自分の能力や才能は、経験や努力によって成長できるという考え方です。この考え方を身に付けるには、新しいことに挑戦し、積極的に学習、成長する環境が必要です。また、結果だけでなく挑戦の過程を評価し、挑戦を他者と共有することで学び合い、支援し合う仕組みも構築しています。

出所:テルモ「テルモのグローバル人的資本経営」
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