MR. AEKALAK CHIAMCHAROEN/Shutterstock.com

 国内市場の飽和や縮小を受け、海外進出する企業が増えている。だが、もちろんそれだけで活路が開けるわけではない。世界で売るためのポイントは何か。本連載では、国内外で調味料「クックドゥ」などの事業拡大を牽引した元・味の素マーケターの中島広数氏が、グローバルマーケティングの要諦を実務視点から解き明かした『グローバルで通用する「日本式」マーケティング 元・味の素マーケティングマネージャー直伝の仕事術』(中島広数著/日本能率協会マネジメントセンター)の内容の一部を抜粋・再編集。

 第4回は、日本式のマーケティングを海外で実施する際のポイントを解説する。

<連載ラインアップ>
第1回 中国で売れなかった『味の素』の売上が、なぜ10倍に伸長したのか?
第2回 定番ブランド『クックドゥ』、特売価格「2個で300円」にこだわった理由とは?
第3回 売上が低迷していた「クックドゥ」は、いかにして人気回復に成功したのか?
■第4回 『Birdy』がタイの缶コーヒー市場でシェア1位を守り続けている理由とは?
(本稿)


<著者フォロー機能のご案内>
●無料会員に登録すれば、本記事の下部にある著者プロフィール欄から著者フォローできます。
●フォローした著者の記事は、マイページから簡単に確認できるようになります。
会員登録(無料)はこちらから

日本のマスマーケティング成功事例をアジアに

 第7節でご紹介した活用事例は、私自身が日本の味の素で実践したことです。

 これはマスマーケティングでの成功例であり、今後、人口が減少へと向かい、かつ消費者のニーズが多様化している日本においては、これからはマスマーケティングは徐々に難しくなってくるかもしれません。

 しかしながら、反対にアジアというグローバルマーケティングにおいては人口も増え、経済も発展する中で、これからがマスマーケティングの時代だけに、日本以上にこうしたやり方は効果を発揮するはずです。

 たとえば、私が事業支援を行ったフィリピンのオイスターソースや、カンボジアのポークパウダー、あるいは私ではありませんがタイ味の素が1993年に発売した缶コーヒーなどはまさに日本式のグローバルマーケティングが当てはまった事例と言えます。

 味の素と缶コーヒーというとピンと来ないかもしれませんが、実はタイで発売している『Birdy』という缶コーヒーブランドはタイでナンバーワンの売上を誇っています。本来、コーヒーというとネスレが強いはずですが、味の素がお株を奪う成功を収めています。

 きっかけは日本の味の素からタイに駐在した人間が、タイでは高速道路が伸びていて、長距離トラックもたくさん走っていることに注目しました。

 それを見た一人のマーケターが「缶コーヒーは眠気覚ましにもなるし、出せばトラックドライバーに支持されるはずだ」と気づいて開発したというものです。第一参入で先行優位もあり、売上第一位に躍り出て、今もその順位を保っています。

 しかし、数年前にカラバオというエナジードリンクの会社が缶コーヒーを発売したことで、少しずつシェアを奪われるとい大事件が起きました。ただでさえグローバルジャイアントのネスレとの戦いが激しいのに、さらに新ブランドの市場参入が起こる。

 これはそれぞれの業界のカテゴリーの多くが、いまだ成長期であるアジア諸国ならではのマーケティング課題です。タイというのはエナジードリンクの需要が高く、世界的に有名な『レッドブル』も元々はタイのエナジードリンクをヨーロッパで売れるように改良したものですが、そんなエナジードリンクの業界で『レッドブル』以上に売れているのがカラバオです。