国内市場の飽和や縮小を受け、海外進出する企業が増えている。だが、もちろんそれだけで活路が開けるわけではない。世界で売るためのポイントは何か。本連載では、国内外で調味料「クックドゥ」などの事業拡大を牽引した元・味の素マーケターの中島広数氏が、グローバルマーケティングの要諦を実務視点から解き明かした『グローバルで通用する「日本式」マーケティング 元・味の素マーケティングマネージャー直伝の仕事術』(中島広数著/日本能率協会マネジメントセンター)の内容の一部を抜粋・再編集。
第3回は、定番商品のリブランディングに成功した背景を5の観点から整理する。
<連載ラインアップ>
■第1回 中国で売れなかった『味の素』の売上が、なぜ10倍に伸長したのか?
■第2回 定番ブランド『クックドゥ』、特売価格「2個で300円」にこだわった理由とは?
■第3回 売上が低迷していた「クックドゥ」は、いかにして人気回復に成功したのか?(本稿)
■第4回 『Birdy』がタイの缶コーヒー市場でシェア1位を守り続けている理由とは?
※公開予定日は変更になる可能性がございます。この機会にフォロー機能をご利用ください。
<著者フォロー機能のご案内>
●無料会員に登録すれば、本記事の下部にある著者プロフィール欄から著者をフォローできます。
●フォローした著者の記事は、マイページから簡単に確認できるようになります。
●会員登録(無料)はこちらから
白紙になってものを見ろ
これには大きな反対がありました。
『クックドゥ』と言えば「中華」という戦略を長年継続してきたこともあり、社内では、もし和風に『クックドゥ』と付けて失敗したら、ブランド価値を毀損し、売上は大幅減になり、「末代まで名を残す愚将になるぞ」とまで言われてしまいました。
さすがに多少は凹みますが、すでに心に火がついた私は「本当にそうなのか?」と思い、過去から実施されている定量ブランド調査の結果をもう一度読み返すことにしました。よく見ると、ユーザー・ノンユーザー含めて『クックドゥ』に対して抱く純粋想起イメージは、「簡単」、「おいしい」、「本格」、「手軽」という順番になっており、「中華」のイメージもあるものの、それよりも「簡単に本格的なものがおいしくつくれる」というイメージが強いことが分かりました。
それだけでは疑心暗鬼の周囲を説得することはできないと思った私は、日常的に『クックドゥ』を使っているヘビーユーザーやミドルユーザーを集めたグループインタビューを実施することにしました。社内で何か言われるのはともかく、『クックドゥ』を使っている人たちをがっかりさせてはいけないという想いからです。
『クックドゥ』の中華シリーズのパッケージに「豚バラ大根」のシズル写真を貼った、見慣れていない私たち社内の人間からすればいかにも気味の悪いダミーパッケージをつくってもらい、ユーザーたちに見せて反応を聞いてみたところ、予想に反して「早くこの商品を出してほしい」という声が圧倒的でした。つまり、『クックドゥ』というブランドは「おいしいものを失敗することなしにつくることができる」というイメージであり、その中に中華以外のメニューが入ったとしても拒否反応はなかったのです。
「白紙になってものを見ろ」という言い方がありますが、会社の中にいて、『クックドゥ』事業の成功を見守ってきた人たちには「クックドゥは中華」という先入観があり、そこから脱するのが難しかったのかもしれません。しかし、一般のユーザーからすれば、おいしいメニューが簡単につくれることが何より大切であり、その点で『クックドゥ』への信頼感は絶大です。おいしくて手づくりできない味わいのメニューがつくれるのであれば、「クックドゥ=中華」に限定するものでもなかったのです。
ブランドは、商標として所有しているのは会社ですが、心の中に抱いて大切に持ってくれているのは生活者のみなさんです。生活者の頭の中にブランドイメージがある以上、私たちマーケターは常に「生活者言語(生活者が具体的にどう表現したのか)」を根拠にする必要があります。
最終的に生まれたのが『クックドゥ きょうの大皿』、特に『豚バラ大根』や『豚ばらなす』、『肉味噌キャベツ』などの商品は大ヒットとなり、2018年には『クックドゥ』は過去最高の売上を記録したそうです。