2020年の静岡・山梨アライアンス、2022年の静岡・名古屋アライアンスは、経営統合ではない、地域金融機関同士の新しい協業の在り方を提示した。他行にはないユニークな取り組み、数々の“地銀初”の試みはいかにして生まれるのか。柴田久社長へのインタビュー後編では、非金融サービス、DX、地方創生、サステナビリティといった個別のテーマについて、根底にある考え方と具体的な取り組みについて聞いた。(後編/全2回)
多様化する顧客ニーズに合わせて非金融サービスを拡充
――「金融だけでは生き残れぬ」──。あるメガバンクグループのトップはこう言いましたが、非金融サービスに対する考え方と具体的な取り組みはどういったものですか。
柴田久氏(以下敬称略) われわれは、銀行からスタートしていますので、預金をお預かりして、貸し出しを行うことが主たるビジネスであることに間違いはありません。ただ、マイナス金利や長期にわたる異次元の金融緩和の中で利ザヤは縮小してきました。
地域経済を支えていくためには、われわれ自身がしっかりと収益をあげ、サステナブルな経営をしていかないといけない中で、伝統的な預貸金ビジネス以外に非金融ビジネスに注力せざるを得ない環境になってきたことは事実です。
われわれのグループの中には証券会社やリース会社、コンサルティング会社などがあり、これらの業務領域は地域やお客さまを取り巻く環境の変化とともにどんどん広がっています。
一方、そこだけでは解決できない、われわれが持っていないメニューをもっと増やしていかなければいけないという課題認識があり、昨年7月に「SFGマーケティング」というマーケティング会社を電通グループさんと一緒に立ち上げました。
また、お客さまからの引き合いが多いにもかかわらず、規制の中でできなかったのが不動産業です。例えば、地域のお客さまが工場の跡地をどのようにしたいとか、自治体が持っている駅前の大きな土地をどうやって活用するかといったビジネスに最終的に仲介として銀行は関われなかったわけです。
川下ではなく、もっと川上の領域でお客さまの課題を解決するために、不動産私募ファンドの組成・運用に対する助言などを行う「SFG不動産投資顧問」を設立しました。地域企業や投資家、静岡銀行などの金融機関が出資して作ったファンドに対して、観光活性化や人口を増やす街づくりなど、長期的な地域成長の観点から助言を行うものです。
今年度から営業を本格スタートしたのですが、反響も非常に大きく、開発案件のご相談が既にいくつも寄せられている状況で、ビジネスのボリュームは想定以上に大きくなりそうです。
――日本屈指の「ものづくり県」として、遊休不動産の活用や保有不動産の流動化といったニーズは高そうです。地域の活性化という意味ではベンチャー支援にも積極的ですね。
柴田 銀行本体でベンチャーデット(融資)をやり始めて4年目になり、順調にネットワークも広がってきています。これも突然始めたわけではなくて、2014年にマネックスグループが持分法適用会社としてグループ内に加わったことがきっかけとなっています。
ここから人脈を生かしてネットワークが広がり、ベンチャーファンドに投資したり、異業種企業との連携を深める中でベンチャーデットのニーズを把握し融資を始めるなど、ビジネスを拡大してきた経緯があります。
――若い世代のスタートアップの動きは、静岡でも活発ですか。
柴田 やはりスタートアップが多いのは、静岡よりも首都圏になりますので、ベンチャービジネスに関する投融資を手掛ける静岡銀行のベンチャービジネスサポート部は東京に拠点を置いています。一方、静岡県に新しい価値とビジネス革新の機会を提供するために、静岡県内の企業とスタートアップのマッチングイベント「TECH BEAT Shizuoka」を毎年開催しています。
昨年も延べ約6000人が参加するなど、地銀が開催するビジネス商談会としては非常に大きなイベントに成長しています。
われわれはベンチャー、スタートアップ企業に単に融資支援するのではなく、彼らが持っているノウハウや先端技術を静岡の企業をマッチングさせて、地域の経済、静岡の企業が発展していくことを目指しています。本イベントを通じて、地域イノベーションのエコシステムの土壌を静岡の地に作っていきたいと考えています。