・店舗DXにより生産性を向上

 PBの強化によって、トップライン(売上高)と粗利益を引き上げる一方で、ボトムライン(利益)の拡大にも取り組んでいる。一般に小売りビジネスは利益率が高くはないため、店舗運営面での効率化が欠かせない。

 手立ての1つが実店舗で進める店舗DX(デジタルトランスフォーメーション)による生産性の向上だ。これは中計で掲げた①の「デジタルシフト」に当たるもので、2023年度は人時生産性(従業員1人1時間当たりの粗利益)が6%増えた。

 買い物客がスマートフォンで商品のバーコードをスキャンし、専用レジで会計する決済システム「レジゴー」などの導入店舗を拡大。セルフレジの導入も進めた。

 また、過去の実績データを基にAI(人工知能)が値引きや発注数を提案する値引き・発注システムを拡大した。

 GMSを展開する中核企業のイオンリテールでは、2024年2月末時点で人時生産性が前期に比べ5.6%改善。「レジゴー」の導入店舗は全367店のうち204店に拡大し、セミセルフ導入店舗は354店とほぼ全店に広がった。AIオーダー(AIを活用した発注システム)は日配品ではほぼ全店の357店で導入。AIカカク(AIを活用した値引きシステム)はデリカ(総菜)346店、デイリー322店で活用している。

 また、2023年度は「デジタルシフト」戦略の一環として、英国オカド社と組み、首都圏に配送する倉庫出荷型のネットスーパー「グリーンビーンズ」を立ち上げた。最先端のAIとロボティクス機能を導入した大型倉庫を千葉市に建設し、2023年7月にサービスを開始。会員数は16万人を超えた。来年は東京都八王子市に建設する。

 ボトムラインの拡大策のもう1つがコスト構造改革。イオンでは水道光熱費の削減を使命としたタスクチームを編成。環境負荷も低減できる自然冷媒の冷蔵ケースへの入れ替えを前倒しし、規模を生かした電力包括契約や電力調達方法の多様化も進め、グループの水道光熱費を約200億円削減している。

・エリアでの競争優位性を強化

 イオンは地域密着の経営体制による事業基盤の確立に向け、エリアごとにGMSとSMなどの企業を経営統合する地域再編を進めている。これは中計で掲げた④の「イオン生活圏の創造」の第1ステップであると言える。これまでに北海道、東北、九州で統合が完了し、2024年3月には中四国でフジ・リテイリングとマックスバリュ西日本を完全統合した新生・フジが誕生した。

 エリアごとに戦略を立て、地域に密着した経営を進めるのはもちろん、一定の企業規模に統合することで、物流センターやプロセスセンター、デジタル領域など巨額な投資が必要な分野への投資余力を確保する。戦略的なスケールメリットをつくり出すことで、コスト競争力やエリアでの存在感を高めて、競争優位性を引き上げようという狙いだ。

 既に2023年度は先行するイオン北海道、イオン東北、イオン九州はいずれも増収増益を達成。完全統合前のフジも増収増益となったが、これらの経営基盤をさらに強化する。

 一方、首都圏はマルチフォーマット(多業態)でシェアを拡大する。首都圏に1130店を集中出店する小型SMのまいばすけっとは2023年度に過去最高の営業利益を達成した。今後はまいばすけっと、ディスカウントストア(DS)のビッグ・エー、ネットスーパーの「グリーンビーンズ」の展開に力を入れる。

イオンはエリアごとに企業を経営統合する地域再編を進めてきた。2024年3月には中四国で統合新会社のフジが誕生した。写真はSM業態のフジ戸坂店(広島市)

〈業績〉営業利益は過去最高益を更新

 イオンの2024年2月期の連結決算は営業収益(売上高に相当)9兆5535億円(前期比4.8%増)、営業利益2508億円(同19.6%増)、経常利益2374億円(同16.6%増)、親会社株主に帰属する当期純利益446億円(同109.0%増)と増収増益となった。

 営業収益と各段階の利益額はいずれも3期連続で増加し、コロナ禍前の2019年度を上回った。営業収益と営業利益、経常利益は過去最高を更新した。

 セグメント別の業績は主要8事業のうち、5事業が営業増益だった(下の図)。

 特徴的なのは、小売事業が好調で、復権したことだ。中でも課題だったGMS事業の収益力が増し、同事業の営業利益は283億円と倍増。2020年のコロナ特需以降、2期連続で減益だったSM事業も当期は反転し、同419億円と8割超増えた。消費の2極化で追い風が吹くDS事業と合わせた主要小売3事業の営業利益合計は381億円の増益で、連結営業利益の増益分410億円のうち、9割以上を賄った。

 この結果、ヘルス&ウエルネス事業(ドラッグストア)と国際事業(海外)を含めた小売5事業の営業利益は連結営業利益の52.4%と過半を占め、コロナ前の2019年度の34.4%より18ポイントも上昇。比率としては中計で掲げていた2025年度に52%という目標を達成した。これまで連結営業利益の過半を占めていた総合金融事業とディベロッパー事業の比率が低下した。

 ヘルス&ウエルネス事業はドラッグストア最大手のウエルシアホールディングスが検査キットなど前年あった特需の反動減の影響を受け、減益になった。総合金融事業はイオンフィナンシャルサービスが海外の貸し倒れ関連費用の増加などで減益に。国際事業は景気の悪化やインフレに伴い、イオンマレーシアとイオンベトナムが減益になったことが響いた。