Zoomはなぜ日常に定着できたのか

 私たちは普段、「日常時」を基盤として生活を営んでいます。そのため、商品やサービスを新たに検討しようとした際には、日常時におけるユーザーニーズに基づきがちです。しかし、そうした時にも「フェーズフリー」という概念を手がかりに開発を行う場合には、これまで顕在化していなかった「非常時」におけるニーズを満たしたアイデアが浮かんでくるようになります。

 ここでは、すっかり私たちの日常生活に馴染んだ「Zoom」を例として考えてみましょう(Zoomはフェーズフリー認証などを取得したわけではありませんが、とてもフェーズフリー性が高いといえるため例としてあげます)。

 いまさら説明するまでもないかもしれませんが、ZoomはCOVID-19の流行を契機として一気に普及したオンラインミーティングツールです。COVID-19が猛威を振るった際に新しく登場した製品やサービスは数多く存在しましたが、パンデミックが終息に向かう中で、市場から姿を消したものも少なくありませんでした。しかし、Zoomは今現在も月間アクティブユーザー数が1000万人を超えており、完全に私たちの生活に定着したといえるでしょう。

 COVID-19が終息に向かうとともに姿を消したサービスとZoomの違いはどこにあったのか。そこには多くの要因が考えられますが、大きな要因のひとつとして、Zoomが非常時のみならず、日常時においても価値を発揮できるサービスであった点、つまりフェーズフリーであったためではないでしょうか。

 Zoomは決して、パンデミックなどの非常時のために開発されたサービスではありませんでした(開発されたのはCOVID-19よりはるかに前の2011年です)。日常においての便利さや快適さを追求した結果、非常時にも価値を発揮することができたに過ぎません。だからこそ、COVID-19の流行後も日常に定着することができたのです。

 これはいうなれば、Zoomという製品がコロナ禍という非常時のニーズ、つまり顕在化していないニーズをはからずも捉えていた、と表現することが可能でしょう。そしてフェーズフリーとは、まさにそうした顕在化していないニーズを、日常の価値を追求する中(顕在化したニーズを追求する中)で満たしていこうという試みなのです。

<連載ラインアップ>
第1回 トヨタのPHEV、アシックスの「走れるビジネスシューズ」は、なぜ非常時にも価値を発揮できるのか?
第2回 「コスト」から「バリュー」へ、なぜフェーズフリーな防災商品が売れるのか?
第3回 「非常時にも価値を発揮するものを」コクヨや明治が生み出したフェーズフリーな商品とは
■第4回 「Zoom」はなぜコロナ後も姿を消すことなく、日常に定着したのか?(本稿)
■第5回 フェーズフリー商品で次々にヒットを生み出す「洋服の青山」の思考法とは?(1月20日公開)

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