AIの普及により、多くの人間の仕事が取って代わられることが懸念され、近年は「ChatGPT」の登場で生成AIが脚光を浴びている。しかし、AIには「新しい知識(ナレッジ)を創り出すこと=知識創造」はできない。これができるのは人間だけだ。生身の身体を持ち、五感を使って経験から意識的に学べるからこそ、人間には知識創造が可能であり、生成AI隆盛の時代だからこそ、知識創造はビジネスパーソンの重要なスキルとなる。本連載では、『マンガでやさしくわかる知識創造』(西原〈廣瀬〉文乃著/藤沢涼生作画/日本能率協会マネジメントセンター)から内容の一部を抜粋・再編集。誰もがすぐに実践できる知識創造の考え方についてマンガを交えながら紹介する。
第6回は、知識創造理論における知識の定義、形式知と暗黙知の違い、暗黙知が重要な理由について解説する。
<連載ラインアップ>
■第1回 社内の課題を一発解決、若手経理部員がつくった“図書館”の役目とは?
■第2回 なぜ、多くの人が「自分は知識を創っていない」と思い込んでしまうのか?
■第3回 組織の中で知識を創り、共有することで生まれる3つの効果とは?
■第4回 なぜ、あの居酒屋チェーンの「つくね」は、どの店で食べてもおいしいのか?
■第5回 「ジャパンアズナンバーワン」 と賞された日本企業の強さの秘密は何だったのか
■第6回 なぜ、業務を「見える化」してKPIで測ると、人は違和感を覚えるのか?(本稿)
■第7回 創造と蓄積をどう繰り返す? 知識創造理論の中心「SECIモデル」とは?
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■ 知識の定義
さて、プロローグで予告した通り、ここで知識の定義をお伝えしたいと思います。
「個人の全人的な信念や思いを真善美(しんぜんび)に向かって社会的に正当化するダイナミックなプロセス」
これが、野中先生と竹内先生による知識の定義で、本書でもこの定義を採用します。
この定義で、重要なポイントは3つあります。
1つめは、個人の信念や思いが起点となっていること。水上さんの熱い思いはまさにこれですね。
2つめは、うそ偽りがなく(真)、道徳や倫理にかなっていて(善)、調和した状態(美)、という理想に向かうということ。ここでいう理想は、頭で思い描ける完全な状態、というようなイメージです。
3つめは、個人の偽善や独りよがりにならないために、社会の中で正当化するということ。
ここでの正当化とは、話し合いや議論により、妥協せずに合理的な合意を形成することです。
知識は、この3つのポイントを満たしていくダイナミックなプロセスということになります。
ところで、この定義はどこから来たのでしょうか。古くから、知識の研究を担ってきたのは哲学です。野中先生と竹内先生は、哲学における知識論に学び、古代ギリシア哲学者のプラトンが「ものごとをどのように認識するか」という観点から知識をとらえた、「正当化された真なる信念(Justified true belief)」という定義に着目しました。
ですが、野中先生と竹内先生は、日本企業を研究したときに、プラトンの定義は日本企業が行っている知識創造の本質を表していないと感じたそうです。
個人の情熱や熱い思い。仲間と一緒に理想を追求する様子。そして、知識そのものがダイナミックなプロセスであるという直観。つまり、ある信念自体が知識なのではなく、他者との間に社会的合意を形成することが知識創造の本質であり、だからこそ、知識はつねに更新し続けることができる。この本質を知識の定義に入れる必要がある。
このように感じたことから、先に掲げた定義となったのです。これは、人間としてのあり方、人間どうしのかかわり方、人間と社会や環境とのかかわり方を定義に入れ込むものでした。
このことから、知識創造における知識のとらえ方として、次の2つの点を強調しておきたいと思います。