オフィスビル賃貸とホテル運営を事業の柱とする大手総合デベロッパーの森トラスト。同社で2016年からトップとして指揮を執ってきた創業家の伊達美和子社長は、代表的な女性リーダーの1人といえる。経済同友会の副代表幹事も務める同氏に、ビジネスで重視している女性ならではの視点や、産業界でさらに女性リーダーを輩出していくための条件などについて聞いた。
本稿は「Japan Innovation Review」が過去に掲載した人気記事の再配信です。(初出:2023年7月12日)※内容は掲載当時のものです。
女性トップならではの感性が光る森トラストの「オフィス改革」
──今年5月、御社が開発した複合施設「東京ワールドゲート 神谷町トラストタワー」(東京都港区)に本社を移転され、森トラストのオフィスエントランスはホテルライクなものに大きく変わりました。また、テナント企業にも空間設計の自由度や可変性を高めた“スケルトン状態”で賃貸し、「クリエイティブフロア」を標榜しているのもユニークです。こうした発想は伊達社長の女性ならではの感性も大きいのではないですか。
伊達美和子氏(以下、敬称略) あくまで私の感覚ですが、女性は比較的内側や体験を重視する傾向があると思っており、たとえば、写真一つとっても、男性が撮ったものか女性が撮ったものか、おおよその見当がつきます。女性が撮影した写真は割とパーツに寄るといいますか、印象的なところにフォーカスして撮る傾向があるのに対して、男性は少し引いて全体感を出しながら撮るケースが多いように思います。
翻って我々の世界を考えると、オフィスビルを建てる際、専門家ほど建築の立場から見る傾向が強いわけですが、そこにはビルの運営者やテナントユーザーの視点がやや欠けることも少なくありません。そのあたりの違いに気づきましたので、オフィスビルでもホテルでも、建築過程でのチェックの視点が他社とは少し違うような気はします。
──伊達社長が考える、オフィスビルやホテルの世界観とはどんなものでしょうか。
伊達 大型のオフィスビルであれホテルであれ、建物はとかく“作品”になりがちなのですが、竣工当初は建物自体の器が注目されても、毎日目に触れるのは器の内側です。その内側の快適性をどう上げていくかのほうが、より重要でしょう。たとえばホテルなら、来られる方々が見てワクワクするような絵画をどのフロアのどこに設えるかを考えるわけです。
当社の物件でいえば、「ウェスティンホテル仙台(2010年開業)」では、エレベーターが開くと正面にアートが目に飛び込んでくるサプライズがあったり、ゴールドとブラックを基調にした内装カラーでも、上階へ行くと真っ赤な壁面に転換する驚きがあったりと、来場者の高揚感につながるストーリーを演出しています。
和風ホテルについても、たとえば「翠嵐ラグジュアリーコレクションホテル京都(2015年開業)」では、門の入り口からやや距離があるレセプションへの動線について、当初はわかりやすい道の提案でした。でも、敢えてわかりにくい道を回遊しながら行くルートに変更したのです。途中、風情のある樹木や古都らしい建物があって雰囲気がいいので、来館者にはひと味違った新鮮な発見がある。そういったテーマを随所に散りばめています。
こうした要素をオフィスビルでも応用したいと考えたのが、東京ワールドゲート 神谷町トラストタワーです。我々の新オフィスも、エントランスロビーとしての風格がある程度は必要ですが、ホテルライクな雰囲気も出したいと思い、建築家の隈研吾さんに設計をお願いしました。
共用部の廊下や洗面所の設えも、オフィスだからこのくらいでいいという発想とは一線を画した作り込みをしています。テナント企業も、神谷町トラストタワーのような1フロアの面積が大きいオフィスに移られるにあたり、新しい発想でオフィス環境を整えたいはずです。そこで最大限、可変性を高めたクリエイティブフロアを考案しました。