三井住友信託銀行は2023年11月、上場企業におけるコーポレートガバナンスに関する対応状況の実態調査「ガバナンスサーベイ2023」の結果をまとめ発表した。同調査によれば、資本コストを意識した経営を重視する企業が増えている一方で、機関投資家からの評価は低く、双方の意識の差が見られたという。その要因はどこにあるのか。また、企業はどのような取り組みが求められているのか。調査を取りまとめた三井住友信託銀行ガバナンスコンサルティング部の茂木美樹氏と山田慶子氏に、「ガバナンスサーベイ2023」から得られるインサイトを聞いた。
コンサルティングファーム、シンクタンク、金融機関、ICT企業、行政機関などが公表している各種サーベイの責任者へインタビュー取材を実施。責任者ゆえの課題意識と分析で、調査結果から得られるインサイトを読み解いていただきます。
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国内最大級のコーポレートガバナンスに関する調査
「ガバナンスサーベイ」は三井住友信託銀行が2017年から毎年実施しているもので、「ガバナンスサーベイ2023」は7回目にあたる。同社ガバナンスコンサルティング部ビジネスソリューションチーム長の山田慶子氏は、同調査の狙いを次のように語る。
「ガバナンスサーベイは、金融庁と東京証券取引所が2015年に『コーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)』を制定したのを機に始めました。ガバナンス(企業統治)に関する企業の関心が高まる中、当社にも、何にどのように取り組むべきかといった相談をいただく機会が増えていました。そこで、企業の立ち位置を示すことでガバナンスの改革につなげていただくことを目的に始めた調査です。2018年からは、日本のコーポレートガバナンス改革を牽引する、一橋大学CFO教育研究センター長伊藤邦雄氏の監修を得て実施しています」
ガバナンスサーベイ2023は2023年7月~8月に実施された。国内市場に上場する企業のうち1888社が応じた。
同社フェロー役員ガバナンスコンサルティング部長の茂木美樹氏は「上場企業の5割弱の企業に参加いただき、国内最大級の調査となりました。さらに、東証プライム市場だけでなく、スタンダード市場、グロース市場に上場する企業も対象としています。市場の相似形と言える調査だと自負しています」と語る。
企業の取り組みに関するサーベイにはさまざまなものがあるが、参加するのは取り組みに熱心な大手企業中心になりがちだ。そのため、ミドル企業やスタートアップ企業は「わが社とは関係のない話」と捉えがちだった。その点で、同社のガバナンスサーベイは、多くの企業にとって自社の規模に近い企業が参加しており、まさに自社の立ち位置を確認できるわけだ。
山田氏はさらに、設問の設定などについて「経年の変化を見るために毎年同じ内容を聞いている設問もありますが、サステナビリティを巡る世界的な動向など、最新のテーマやトピックを反映して、設問を設定しています。また、本サーベイの一部は、2020年より、国内外の機関投資家にも参加いただき、回答を得ています」と言う。
サーベイ結果にみる日本企業の取り組みの進捗
実際に日本企業におけるコーポレートガバナンスの取り組みの進捗はどのようなものなのか。調査結果を見ていこう。
資本コストについては、「資本コストを意識した経営への取り組みを今後強化する」と回答した企業が55%に達している。だが、「取締役会における資本コスト・資本収益性や市場評価に関する分析」を実施している企業は36%にとどまった。同項目を重視すると回答した機関投資家は69%となっている。
同じく、資本コストを意識した経営の実現に向けた取り組み事項として、「経営戦略の見直し」(企業23%・投資家38%)、「資本コスト等に基づく事業ポートフォリオや経営資源配分の見直し」(企業28%・投資家79%)、「最適B/Sの検討・見直し」(企業19%・投資家63%)と、いずれも企業と投資家の意識に大きな差が見られる。
この結果について、山田氏は次のように解説する。