オムロン元取締役の安藤聡氏(撮影:今祥雄)

 オムロンは、「企業理念実践経営」「ROIC(投下資本利益率)経営」「ESGインテグレーション」をかけ合わせた独自のサステナビリティ経営に取り組んできた。その取り組みは、世の中にサステナビリティ経営という言葉が定着する以前から始まっていた。「企業理念が価値創造の原動力」というオムロンのサステナビリティ経営はどのようなきっかけで生まれ、進められてきたのか。オムロンの変革の歩みを見続けてきた安藤聡氏に聞いた。

2010年当時は社員への企業理念の浸透は十分でなかった

──オムロンは2011年から独自のサステナビリティ経営に本腰を入れて取り組んできました。どのようなきっかけで始まったのでしょうか。

安藤 聡/元オムロン 取締役

1977年慶應義塾大学法学部卒業、東京銀行(現三菱UFJ銀行)入行、2007年三菱東京UFJ銀行を退職し、オムロン入社。2011年執行役員経営IR室長、2015年執行役員常務グローバルIR・コーポレートコミュニケーション本部長を経て、2017年6月取締役に就任。2023年6月退職。2022~2023年内閣府主催「知財投資・活用戦略の有効な開示及びガバナンスに関する検討会」の委員を務める。2016年から一橋大学CFO教育研究センター客員研究員、2022年東京証券取引所主催「市場区分の見直しに関するフォローアップ会議」のメンバーに就任。

安藤聡氏(以下敬称略) 私が4年間の常勤監査役を経て執行役員経営IR室長に就任した2011年は現山田義仁会長が社長CEOに就任した年で、オムロンの転換期だったと思います。オムロンは1933年の創業以来、企業理念を非常に大事にしてきたのですが、企業規模の拡大とともに2010年当時は企業理念が社員に十分に浸透しておらず、結果として経営陣と社員の一体感が乏しいと感じていました。

 企業理念を実践するためには、目標設定とその達成のためのPDCAを管理する仕組みが必要ですが、当時のオムロンはその認識が十分ではありませんでした。また、自社の強みと課題が明確に意識できておらず、改革のために必要な具体的なアクションがとれずにいました。そこで、この2つの課題克服に向けた取り組みに着手したのです。