経営における「ESG(環境・社会・ガバナンス)」の3つの観点は、企業が長期的に成長していくために不可欠となっている。その注目の高さは、ESG投資が拡大していることからも分かるが、ESGを取り巻く状況は刻々と変化している。書籍『ネイチャー資本主義』(PHP新書)を執筆した夫馬賢治氏に、日本企業のESGの現状と今、取り組むべきことを聞いた。
世界経済の現状を整理したかった
夫馬賢治氏が2022年に上梓した書籍『ネイチャー資本主義』は、プラネタリー・バウンダリー(地球の限界の可視化)、デカップリング(経済指標と環境指標を切り離すこと)、資本家と機関投資家の変化、対立構造の変化を丁寧に解説し、ネイチャー資本主義を実践するための取り組みを立場別に提案している。
なぜ『ネイチャー資本主義』を書こうと思ったのか。その理由を夫馬氏に聞くと「危機感に駆られました」という答えが返ってきた。
2020年に刊行された夫馬氏の書籍『ESG思考』でも、冒頭で「オールド資本主義」「ニュー資本主義」「脱資本主義」「陰謀論」というESGに対するスタンスに触れているが、日本では、この4つの立場にある企業や関係者による「かみ合わない議論」が続いている。
特に日本では、「脱資本主義がSDGsである」という声が大きくなっており、夫馬氏は議論が本質でない方向に向かっていくことに危機感を抱いていたという。そこで、世界では何が解とされているのかを、環境問題の解決と経済成長の両立という観点も含めて提示しようというのが執筆のきっかけとなった。
しかも日本では、ESGは一部の者による陰謀であるとの声が出てきており、米国でも反ESGの動きが陰謀論として語られるようになったという。こうした状況を目にし、夫馬氏は、多くの人たちはESGを取り巻く状況の変化を把握しきれず、何が起きているか分からなくなっているのではないかと考えたという。
そこで、夫馬氏はオールド資本主義からニュー資本主義への変化だけでなく、その周りにいる脱資本主義と陰謀論を主張する人たちの話もページを割いて説明し、世の中の経済の状況をもう一度整理しようと考えた。