今、日本企業が「アクティビスト」たちに狙われている。ある日突然買収の脅威に脅かされることのないよう、どのような備えをするべきなのか。これまで数々のアクティビストと対峙してきた弁護士の太田洋氏は、著書『敵対的買収とアクティビスト』の中でアクティビストの実像と対応策について解説している。前編に続き、本記事では、実際に現れたアクティビストへの対応策、注目すべき事例について話を聞いた。(後編/全2回)
■【前編】株主提案が過去最多、アクティビストの活動はなぜ日本で活発になっているのか
■【後編】アクティビストの標的にならないために、上場企業が自問すべき「1つの問い」(今回)
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買収防衛策は「時間と交渉の機会を確保するための道具」
――ご著書では、企業の買収防衛策について実例を挙げながら解説されています。実際にアクティビストからの買収提案等を受けた場合、どのような防衛策を講じるべきでしょうか。
太田洋氏(以下敬称略) アクティビストは、買収者側にとって最も有利なタイミングでやってきます。例えば、コロナ禍で一時的に業績が著しく低迷し、株価が暴落している、といったタイミングです。「適正な株価はもっと高いはず」とわかっているのに、先の見えないコロナ禍で皆が不安になっているところにやってくるわけです。
ここで被買収者側がやるべきことは、自社の価値を市場に適正に評価してもらう見直すための時間を確保することです。もしくは、新たに友好的な買収者(ホワイトナイト)を見つけて対抗するために、その交渉に必要な時間を稼ぐことです。
買収防衛策は、「時間と交渉の機会を確保するための道具」といえます。しかし、永遠に会社の身を守り続けることはできないので、「魔法の杖ではない」という点を理解する必要があります。
一番の理想は、うまく時間を稼ぎつつ交渉機会を確保しながら、与えられた時間の中で「会社としてこれがベストだ」と考える経営戦略を株主に提示し、それによって株価が上がる、という展開です。そうすることで、アクティビスト側に「もはや買収や株式の大量取得をするメリットがない」と判断させて、撤退させることができます。
買収防衛策の肝は「時間軸」です。経営に携わる人は皆、会社の持続的な成長を目指して経営を行っています。短期的に見ると利益が出ないことであっても、「中長期的な時間軸」に照らして戦略的な投資を行う経営判断をする必要がある場合も多いでしょう。しかしながら、アクティビストはそこに突然、「短期の時間軸」だけを尺度とする要求をしてくるわけです。
ここで経営者としてすべきことが、十分な時間を確保することです。その時間内に一人でも多くの一般株主に「中長期的には現体制が描く計画の方が、企業価値は向上する」と納得してもらうことがポイントになります。