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 未だ大企業が抜け出せない官僚主義。変化の激しい時代にあって、イノベーションの創発によって成長し続ける企業へと進化するには、どんな組織改革が必要なのか? 本連載では、世界で最も影響力のある経営思想家の1人、ロンドンビジネススクール客員教授ゲイリー・ハメル氏による『ヒューマノクラシー ――「人」が中心の組織をつくる』(ゲイリー・ハメル、ミケーレ・ザニーニ著/英治出版)から、内容の一部を抜粋・再編集。

 第6回は、組織から個人へと視点を移し、大企業のビジネスパーソンが官僚主義的思考から抜け出すための12の問いかけを紹介する。

<連載ラインアップ>
第1回 「人間らしさ」が失われると、なぜ組織は病んでしまうのか?
第2回 高収益体質で業界トップを独走、米国鉄鋼大手・ニューコアの企業文化とは?
第3回 業界平均より25%高い報酬を実現、米ニューコアの独自のボーナス制とは?
第4回 8万人の「起業家集団」! 中国家電大手・ハイアールの「人単合一」とは?
第5回 ハイアールの成長と変革の源泉、「リーディング・ターゲット」とは何か?
■第6回 ライバルの足をすくったことは? 官僚主義的思考から脱却する12の問いかけ(本稿)

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官僚主義者のためのデトックス

 これまで述べてきたように、大企業で働く人の4分の3は、他人に先んじるための秘訣は、官僚主義的な抜け目のなさであると考えている。

 この考えは現実を反映したものだろうか。あるいは、能力の劣る人たちが、昇進を逃したときに使う言い訳だろうか。どちらにせよ、問題は人々がこれを信じ、おそらくはこの考え方に従って動いていることだ。

 内部抗争に長けた人だけが出世できると信じている人は、その戦術を真似ようとする。ちょうど、メダルを取る唯一の方法はドーピングすることだと、嫌々ながらも思い至るアスリートのように。

 前にも述べたが、官僚主義は競争だ。職位による権力と報酬のために、参加者を互いに競わせる。競争自体には、まったく問題はない。ただし、勝利のために人間らしさが犠牲になるとすれば話はちがう。官僚主義が崩壊しはじめるのは、才能があり信念を持った人たちが、戦いの場から去るときだ。

 目先の利益に目もくれない異端者たちが、自分の正義のために、そして、官僚主義によって傷つけられた人たちのために、官僚主義的な意味での勝利を見送るときだ。社会運動研究の第一人者でハーバード大学教授のマーシャル・ガンツが指摘したように、世界を変える人たちが目指すのは、「競争に勝つことではなく、ルールを変えることだ1 」。

1:Marshall Ganz, “Leading Change: Leadership, Organization, and Social Movements,” https://www.researchgate.net/publication/266883943_Leading_Change_Leadership_Organization_and_Social_Movements.

 新しい競争を覚えるには、古い競争を忘れなければならない。もし、あなたが黒帯級の官僚主義者だったとすると、反射的にやっている習慣をどうやって変えればいいのか。官僚主義者のデトックスとは、どのようなものだろう。それは他の回復プログラムとよく似ている。手始めに、アルコホーリクス・アノニマス(AA)の回復ステップを参考にした方法を紹介したい。

 AAの12ステップの4番目は、「恐れずに、徹底して、自分自身の棚卸しをすること」を求めている。この精神にのっとれば、組織で働く人は誰でもこう自問する必要がある。

「官僚的な仕組みのなかで勝つために、私は自分の信条をどこで手放したのか。官僚主義によって、私はどのように人間らしさを失ったのか」