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 未だ大企業が抜け出せない官僚主義。変化の激しい時代にあって、イノベーションの創発によって成長し続ける企業へと進化するには、どんな組織改革が必要なのか? 本連載では、世界で最も影響力のある経営思想家の1人、ロンドンビジネススクール客員教授ゲイリー・ハメル氏による『ヒューマノクラシー ――「人」が中心の組織をつくる』(ゲイリー・ハメル、ミケーレ・ザニーニ著/英治出版)から、内容の一部を抜粋・再編集。

 第3回は、前回に続きニューコアに焦点を当て、全従業員の創意とモチベーションを高める報酬モデルを紹介する。

<連載ラインアップ>
第1回 「人間らしさ」が失われると、なぜ組織は病んでしまうのか?
第2回 高収益体質で業界トップを独走、米国鉄鋼大手・ニューコアの企業文化とは?
■第3回 業界平均より25%高い報酬を実現、米ニューコアの独自のボーナス制とは?(本稿)
第4回 8万人の「起業家集団」! 中国家電大手・ハイアールの「人単合一」とは?
第5回 ハイアールの成長と変革の源泉、「リーディング・ターゲット」とは何か?
第6回 ライバルの足をすくったことは? 官僚主義的思考から脱却する12の問いかけ

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■1 クリエイティビティ│殻を破った思考に報酬を支払う

 ニューコアは、資産の生産性と成長を最大化するようなイノベーションに、従業員全員の意識を集中させており、そのために報酬システムを活用している。

 競合企業は生産力の向上には投資が手っ取り早いと考えているかもしれないが、ニューコアは人々の発想に賭けている。以下がそのやり方だ。

 生産性に報いる・・・ニューコアでは、チームの稼ぎは生産性とリンクしている。現場のチームメイトの基本給は業界平均の75%だが、生産量がある閾値を超えると、ボーナスプランが適用される。

 閾値は通常、工場の定格生産能力の80%だ。この閾値は固定されており、設備投資によって機械や工場全体の定格生産能力が上がったときだけ調整される。チームメンバーはこのことを理解しているので、「資産を活かそう」とする強いインセンティブを持っている。

* 定格生産能力:安全が保障される限度の生産能力。

 というのも、ボーナスを増やす唯一の方法が、一定の資本でより多くの製品を生産することだけだからだ。具体的な方法としては、知恵を働かせてコストを削減したり、ワークフローのスピードを上げたりする。新しい設備が導入されたとしても、何カ月もしないうちに閾値を突破することは珍しくない。

 ボーナスが個人ではなくチームに支払われるという点も重要だ。チームは通常、20~30人のオペレーターで構成され、彼らはさまざまなシフトで働き、特定のプロセスに共同で責任を持つ。チームに報酬を提供することで、共同での問題解決が促される。

 それは、業務が相互依存的な装置産業では非常に重要なことである[図表4-3]

 たとえば、電気炉チーム、鋳造機チーム、メンテナンスチームは連続的なプロセスの一部であり、したがって、この3つのチームの目標は共通している。ヒックマン工場の鋳造機チームのあるメンバーは次のように話した。

「どこかの部分が止まってしまったら、全体が止まってしまう。私の問題はみんなの問題になるから、解決しようと全員が問題に飛びつくんだ」

 どの工場でも、チームは自分たちのパフォーマンス、つまりは自分たちの報酬についての情報にリアルタイムでアクセスできる。高いパフォーマンスを上げたチームは、目標を上回り、その週のボーナスが高額になると予想できる。そして実際にその通りになる。

 想像できるかと思うが、チームメンバーたちは怠け者を許さない。ブライスビル工場の電気炉オペレーターは「仲間からのよいプレッシャーがあるので、すごくやる気になるんです」と話した。