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 未だ大企業が抜け出せない官僚主義。変化の激しい時代にあって、イノベーションの創発によって成長し続ける企業へと進化するには、どんな組織改革が必要なのか? 本連載では、世界で最も影響力のある経営思想家の1人、ロンドンビジネススクール客員教授ゲイリー・ハメル氏による『ヒューマノクラシー ――「人」が中心の組織をつくる』(ゲイリー・ハメル、ミケーレ・ザニーニ著/英治出版)から、内容の一部を抜粋・再編集。

 第4回は、異例の成長を続け、白物家電のシェアにおいて世界最大を誇る中国の家電メーカー・ハイアールを取り上げ、4000以上の小規模な事業体(ME:マイクロエンタープライズ)からなる革新的な組織モデルを概説する。

<連載ラインアップ>
第1回 「人間らしさ」が失われると、なぜ組織は病んでしまうのか?
第2回 高収益体質で業界トップを独走、米国鉄鋼大手・ニューコアの企業文化とは?
第3回 業界平均より25%高い報酬を実現、米ニューコアの独自のボーナス制とは?
■第4回 8万人の「起業家集団」! 中国家電大手・ハイアールの「人単合一」とは?(本稿)
第5回 ハイアールの成長と変革の源泉、「リーディング・ターゲット」とは何か?
第6回 ライバルの足をすくったことは? 官僚主義的思考から脱却する12の問いかけ

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ハイアールという企業

 中国の青島を本拠地とするハイアール(海爾集團)は、ワールプールやLG電子、エレクトロラックスといった有名家電メーカーの競合企業だ。

 現時点で、ハイアールには8万4000人の従業員がいて、そのうち中国国外の従業員は2万8000人。海外従業員の多くは、企業買収によってハイアールの社員となった。今日までで最大の買収は、2016年のゼネラル・エレクトリック家電部門の買収だ。

 年間売上高が380億ドルを超えるハイアールは、このところずっと業績が好調だ。過去10年間、ハイアールの中核である家電事業は、粗利益が年率22%、売上高が年率20%増加する勢いで成長を続けてきた。

 また、同社はベンチャー企業の設立によって、20億ドル以上の株式時価総額を創造してもいる。こうした実績は、中国国内、あるいは海外のどの競合企業も及ぶものではない2

2:ハイアールが公開している財務データ、および中国内外の主要家電メーカーの財務データを筆者らが分析。

 ハイアールの成功は、従来型のマネジメントモデルを徹底的に見直した結果だ。ハイアールの型破りな会長兼CEO、張瑞敏(チャン・ルエミン)が率いたこの大胆な改革は、次の3つの目的にフォーカスしていた。

  1. 全従業員を起業家に変える。
  2. 従業員とユーザーの距離を「ゼロ」にする。
  3. ウェブを中心とした拡大しつづけるエコシステムのなかで、ハイアールが中核企業となる。

 これらの目標をひと言で言い表したのが「人単合一」だ。これは、顧客への価値と従業員が受け取る価値をしっかりと組み合わせる、ということを意味する。この人単合一モデルは7つの点において官僚主義モデルとは大きく異なっている。