売り手市場との言葉が示すように、企業の側から学生にアプローチしなければ真に優秀な、本当に欲しいコア人材は採用できない時代になっている。今、“攻めの採用”が必要になっているのだ。新卒採用では例年数百人規模を採用しているソフトバンク。同社では、どのような“攻めの採用”をしているのか。採用戦略の変遷や取り組み事例なども含め、採用責任者の足立竜治氏に聞いた。

テクノロジーの活用で“アナログな施策”のリソースを捻出

――ソフトバンクは極めて戦略的かつ効率的に採用に取り組んでいます。どのような変遷をたどって今の形になったのでしょうか。

足立 竜治/ソフトバンク コーポレート統括 人事本部 採用・人材開発統括部 統括部長

1997年日本国際通信(現ソフトバンク)入社。法人営業、ソリューションエンジニアの業務に従事した後、2007年に人事部門へ。2012年人事企画部長、2013年グローバル人事部長、2016年組織人事部長、2018年組織人事統括部長を経て、2021年4月より採用・人材開発統括部長として、採用・人材開発全体を統括している。

足立竜治氏(以下敬称略) 以前は「何万人という数の人材にアプローチし、マスの母集団を形成し、そこから選抜した人材を採用する」という方法をとっていました。しかし、2011年ごろから「どうすればより優秀なソフトバンクの未来をつくってくれる人材に効果的に出会うことができるのか」、改めて採用について考えるようになったんです。

 その結果、自分たちが得意とするデジタル技術を活用して業務を効率化し、それで浮いたリソースを新卒・中途採用にかかわらず、本当に欲しいコア人材層に直接アプローチする採用施策に充てていくことにしたのです。

 例えば、キャリア採用で欲しい層にスカウトメールを送るといった、アナログで泥臭い施策などです。これがソフトバンクにおける攻めの採用の基本的な考え方です。リソースは、ヒト・モノ・カネの全てをシフトさせています。

――AIを活用した各種採用フローの効率化など、テクノロジーでできることは人に代わってやってもらおうということですね。

足立 そうです。2010年に履歴書をデジタル化したのを契機に、2013年には面接官のアサインもシステム化しました。2017年からはAIを積極的に活用していき、エントリーシートや動画面接の評価にAIを活用するようになりました。AIによる評価は面接官に対してもトレーニングで活用しています。

 その他、面接予約など学生からの問い合わせはチャットボットを活用しています。このような取り組みにより、採用に関する業務時間を約80%削減するに至りました。

 AI活用は入社後の早い段階での離職など、ミスマッチの防止にもつながると考えています。現在は選考全体をAIで管理・分析することで、さらなる活用に向けて取り組んでいます。

経営戦略を踏まえ、組織に必要な人物像を明確化

――ソフトバンクではどのような人材を求めているのでしょう。

足立 時代や事業の変化に伴い、企業やサービスに求められる要素は変わってきています。ソフトバンクでは2023年5月に中長期戦略を発表しました。コアビジネスである通信事業への注力は継続しながらも、最新テクノロジーを活用した新たな領域で積極的に事業展開することで企業価値の最大化を目指す「Beyond Carrier」という成長戦略です。

 われわれ人事部門はこの経営戦略を踏まえた上で、組織に必要な具体的な人物像を経営層や現場事業部と一緒になって議論し、すり合わせていきました。職種、スキル、レベルなど経済産業省の「デジタルスキル標準」なども参考に定義し、そこから募集ポジションを明確化していきました。

 併せて、これはまさに経営戦略につながりますが、こうした変化を楽しむことができる、何事もチャンスと捉え、挑戦できるマインドを持つ人という条件も加え、採用活動などの各種取り組みを進めています。