写真:日刊工業新聞/共同通信イメージズ

 人的資本経営を実践する際の重要な要素とされる「D&I」(ダイバーシティ&インクルージョン)。最近は、ダイバーシティ(多様性)とインクルージョン(包括性)にエクイティ(公平性)を加えた「DEI」にも注目が集まっている。しかし、D&IやDEIの実現には制度や環境の整備、カルチャーの醸成など課題は少なくない。三井不動産はグループ全体の経営戦略としてD&Iをスピーディーに推進している。同社のD&I推進リーダーと、デロイト トーマツ コンサルティングの専門家が、D&I、DEIとの向き合い方や推進のポイントなどについて語り合った。

※本コンテンツは、デロイト トーマツ コンサルティング主催のウェビナー「人と組織のNew Standard~人的資本経営が実現する価値創造企業~」の「DEI Cultureの醸成に向けて~実際の取組み事例をふまえて~」の内容を採録したものです。

DEIに取り組む環境づくりが遅れている日本企業

 ウェビナーは、デロイト トーマツ コンサルティング(以下デロイト)の組織変革サービスリーダーである、パートナー山本啓二氏による「なぜ企業にDEIの推進が求められているのか」についての考察から始まった。

 イノベーション創出や企業価値の向上を目的として多様な人材の活躍に取り組む企業は多い。また、働く人の多様な価値観や視点を取り込むことで組織のパフォーマンスを上げていくという観点でもDEIは重要という議論は何度もされてきた。

 これに加えて、昨今は「社会的視点が注目を集めてきている」と山本氏はいう。下の図のように経営的視点、労働者視点、社会的視点の3つの視点からのDEIの推進は「企業にとってもはや不可欠」だと言えるという。

 だが、デロイトの調査ではビジネスリーダーの86%が日常的な働き方やチームワークにDEIを組み込むことが重要と考えているにもかかわらず、DEIに取り組む準備が万全と感じているのは、わずか25%という回答が得られた。

DEI推進を阻む3つの大きな壁

 なぜDEIが進まないのか。デロイトの大熊朋子氏は推進を阻む3つの壁を「アンコンシャスバイアス」「マイノリティ優遇への反発」「効果の見えづらさ」と説明する。

 大熊氏は次のように指摘する。アンコンシャスバイアスは「指摘し合うことが乏しい組織風土の場合、助長されやすい」。マイノリティ優遇への反発は「置かれた環境や前提の違いが認識されないまま、単に指標に合わせるだけのDEIが進んでしまうと多数派には理解されにくくなる」。効果の見えづらさについては、ダイバーシティに関するKPIを掲げている企業も増えてはいるが、「KPIは指標に過ぎず、具体的なゴールの達成が明確になっていない」

 DEI推進において、デロイトでは特にエクイティという考え方が不可欠であると考えている(下の図)。組織の中にとどまらず、「社会全体のさまざまな場面においてエクイティを進めていくことが重要」と大熊氏は話す。

 推進を支える組織内の運営も不可欠だ。例えばリーダーシップ、ガバナンス、人的なリソースの配分、リスクやコンプライアンスの管理、データに基づく分析。インフラやテクノロジー、職場体制が整っていることがエクイティを実施していく上で重要になる。