人的資本経営の重要性が高まる中、全社的な経営課題として戦略的に取り組めている企業はどの程度あるのだろうか。日揮ホールディングスの花田琢也氏は2022年にCHRO(Chief Human Resource Officer:最高人事責任者)に就任し、エンジニアの多能化を見据えた人材育成や、人事に関する仕組みや組織の改革を進めてきた。人的資本経営の実現に向けてCHROはどのような役割を担うべきなのか、先駆的な取り組みを行ってきた花田氏が現状と課題について語る。
※本コンテンツは、デロイト トーマツ コンサルティング主催のウェビナー「人と組織のNew Standard~人的資本経営が実現する価値創造企業~」の「未来型CHROのあり方~CHROサーベイ2023の結果をふまえて~」の内容を採録したものです。
CHROの役割を確立するための転換期を迎えている
デロイト トーマツ コンサルティング(以下デロイト)が、一般社団法人日本CHRO協会と共に日本企業の人的資本経営の取り組みや課題などを調査した「CHROサーベイ2023」。これによると、グローバル企業ではCEOが直面している最大の課題を「人材」とする企業が多いが、一部の企業ではいまだに「人材」が経営の主要課題となることへの認知・理解が進んでいないという。調査対象の日本企業におけるCHRO(最高人事責任者)の設置割合も30%にとどまっている。
デロイトの古澤哲也氏は現状を次のように解説する。「CHROと比較して語られることの多いCFO(最高財務責任者)は2000年前後にその存在が注目されるようになり、紆余曲折を経ながら20年近くかけて役割が確立されてきました。一方、CHROは、2000年代に入って戦略人事の考え方が提唱されるのに伴い欧米で設置されるようになりました。今、CHROの役割を確立するための時期を迎えていると考えています」
「CHROサーベイ2023」ではCHROの役割にも着目した。CHROの役割を「ストラテジスト(戦略立案への参画)」「カタリスト(戦略実行の推進)」という攻めと、「スチュワード(統制環境の整備)」「オペレーター(効率的な運営)」という守りに分け、これら4つの領域に関する調査を行っている。
調査結果の分析に関わったデロイト トーマツ グループの林もと香氏は、「CHROの役割についてストラテジスト、カタリストといった攻めの役割を担っているとの回答が多くありました。また、5年ほど前と比べると攻めの役割が増大したとの回答が多く見られます。守りの役割も増えていますが、それ以上に攻めの役割が増大しているのです」と解説する。
この調査では、CFOとCHROの4つの役割領域に関する理想の時間配分も調べているが、ともに「ストラテジスト」「カタリスト」「スチュワード」「オペレーター」の順に4対3対2対1という結果になった。だがCHROはCFOに比べて攻めの役割に移行し切れていない。特にオペレーターの役割への時間配分が過大になっており、人事データの統合・管理などに時間を奪われている現状が見て取れた。