Josiah_S/Shutterstock.com

 不確実性が増し、トップダウン型の組織が時代にそぐわなくなった今、何が組織の命運を握るのか。本連載では、元海上自衛隊海将である著者が、組織の8割を占めるフォロワー(部下)に着目し、上司の「参謀」に育て上げるために必要な考え方、能力について解説した『参謀の教科書』(伊藤俊幸著/双葉社)から、一部を抜粋・再編集。リーダーシップ一辺倒の組織を、自立型の臨機応変な組織に改革するカギを探る。

 第4回目は、主体的に考え、自ら行動できる参謀タイプの人材を体系的に育てる自衛隊の仕組みについて解説する。

<連載ラインアップ>
第1回 元海上自衛隊海将が伝授、「最強の部下」を作り、組織を激変させる方法
第2回 防衛大学校初代学長が、学生たちに繰り返し訴えた「理性ある服従」とは何か?
第3回 自衛隊で明確に使い分けられている「号令」「命令」「訓令」の違い
■第4回 ポテンシャルある若者を、2割の幹部に鍛え上げる自衛隊の仕組みとは?(本稿)
第5回 カーネギーメロン大学教授が提唱、組織の力を引き出すフォロワーシップ理論


※公開予定日は変更になる可能性がございます。この機会にフォロー機能をご利用ください。

<著者フォロー機能のご案内>
●無料会員に登録すれば、本記事の下部にある著者プロフィール欄から著者フォローできます。
●フォローした著者の記事は、マイページから簡単に確認できるようになります。
会員登録(無料)はこちらから

リーダーを陰で支える参謀

 参謀の語源は「謀(はかりごと)に参与する人」という意味で、「謀」とは計画のこと。現代においては「意思決定者の判断の精度を上げるための補佐役」という意味で使われています。

 先ほど「もうひとつの脳」という譬(たと)えを使いましたが、最終的な決断を下すのも、その決断の責任を取るのも、あくまでも上司です。参謀は上司がその決断に至るまでの舞台裏でひたすら汗をかくのが仕事です。

「それでは手柄がすべて上司にいってしまう」と思われる方もいるでしょうが、実際にそういうものです。参謀が仕事をするのは上司を支えるため。では、上司個人のためなのかといったら必ずしもそうではなく、最終的な目標は組織としての大きな目標を達成すること。そこにやり甲斐や自分の使命を感じられないと、おそらく参謀として長続きしないでしょう。

 たとえば私が尊敬する歴史上の参謀に、日露戦争で乃木希典(のぎまれすけ)を支えた児玉源太郎がいます。彼は日露戦争勃発前、台湾総督と内務大臣を務めていました。軍人としてほぼトップまで上り詰めていたのです。

 しかし、対ロシア戦の作戦計画を担当していた参謀次長が急死したため、児玉源太郎は「俺が乃木を支える」といってわざわざ人事降格を自ら願い出ます。

 乃木希典は児玉源太郎より3歳年上ですが、ランクで言えばほぼ同ランク。現代に置き変えれば、企業の役員が窮地(きゅうち)に陥っている事業部の副部長になるようなものです。そして児玉は、旅順(りょじゅん)攻囲戦をはじめとするとさまざまな会戦で天才的な作戦を立案し、日本を勝利に導くことになります。

「自分は平社員だから課長の悩み事なんて関係ない」と思うのではなく、「自分は組織の一員であり、課長の部下である。だから課長をサポートするのは自分の使命である」と思えるかどうかが、参謀になる第一歩です。