GAFAMをはじめとする欧米企業が、今、盛んに現代アートのアーティストと協業している。イノベーション創出の起爆剤となっているようだが、その背景にはどのような秘密があるのか。当連載は、アーティストの作品制作時の思考をビジネスに応用する手法を解説した『「アート思考」の技術 イノベーション創出を実現する』(長谷川一英著/同文舘出版)より、一部を抜粋・再編集してお届けする。アートとビジネスは無縁と思っている方にこそ、ぜひ本編を読んでいただきたい。
第5回目は、米国のベル研究所とヤマハの新製品開発の事例を紹介。組織にアーティストを迎え、ともにプロジェクトに取り組むことで生まれる思考の飛躍や組織変革へのインパクトなどに迫る。
<連載ラインアップ>
■第1回 GAFAMが熱視線を送る「アーティスティック・インターベンション」とは何か?
■第2回 仏ビジネススクールで誕生したアートとビジネスを融合する方法とは?
■第3回 チキンラーメンとウォークマン誕生に見るイノベーション創出の秘訣
■第4回 グーグル、3Dプリンター、SNS、アメリカ発のイノベーションの威力とは
■第5回 ベル研究所、ヤマハが導入するアーティスティック・インターベンションとは?(本稿)
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アーティストと企業の協業が変革を生む「アーティスティック・インターベンション」
第3章では、ビジネスパーソン一人ひとりがアーティストの思考を体験して、革新的なコンセプトを創るワークを行なっていただきました。実践してみて、いかがだったでしょうか。
アーティストの思考によりイノベーションを起こす方法として、もうひとつ行なわれていることがあります。組織のプロジェクトにアーティストを迎えて、ともにプロジェクトに取り組むことで組織全体として思考の飛躍を促し、新規事業を開発したり、組織を変革したりする「アーティスティック・インターベンション」です。
この言葉は、WZBベルリン社会科学センターのアリアン・ベルトイン・アンタル(Ariane Berthoin Antal)によって提唱されました。アーティストと協業することで、企業組織に根付いたものの見方や常識に、干渉や介入(インターベンション)が起こることに由来します。
「アーティスティック・インターベンション」の議論は、2010年以降に高まってきました。その背景には、多くの企業が「デザイン思考」を取り入れてきたなかで、企業組織に根付いたものの見方や常識を根本から覆すという目的に適しているのか、疑問が出てきたためといわれています(※29)。
※29 八重樫文、後藤智「アーティスティック・インターベンション研究に関する現状と課題の検討」『立命館経営学』第53巻 第6号 p.41-59(2015)
第1章での「アート思考」の説明でも示しましたが、アーティストは、自分の関心・興味を起点にリサーチを重ね、根本から考えることで、革新的なコンセプトを創っています。アーティストが企業などの組織に入ると、その企業の人たちには当たり前のことにも疑問を呈することで、組織変革を引き起こす可能性があります。また、アーティストの介入によって生まれた革新的なコンセプトがイノベーション創出につながると期待できます。
アーティスティック・インターベンションは欧米で盛んに行なわれています。すべてのケースで画期的な成果が出ているわけではないようですが、ここでは、成果が得られたケースを中心に紹介します。また、私が、令和2年度文化庁文化戦略推進事業として実施した、コニカミノルタ株式会社の事例も紹介します。
これらの事例から、アーティスティク・インターベンションを成功させるために必要となる考え方についてもまとめています。イノベーション創出や企業変革を目指している経営企画や新規事業部などの皆さんには、このような試みもあることに気づいていただければと思います。