GAFAMをはじめとする欧米企業が、今、盛んに現代アートのアーティストと協業している。イノベーション創出の起爆剤となっているようだが、その背景にはどのような秘密があるのか。当連載は、アーティストの作品制作時の思考をビジネスに応用する手法を解説した『「アート思考」の技術 イノベーション創出を実現する』(長谷川一英著/同文舘出版)より、一部を抜粋・再編集してお届けする。アートとビジネスは無縁と思っている方にこそ、ぜひ本編を読んでいただきたい。

 第4回目では、米国企業のイノベーション事例を紹介。グーグルの検索エンジン、3Dプリンター、そしてSNSの開発に、アート思考がどう生かされたのかを解き明かす。

<連載ラインアップ>
第1回 GAFAMが熱視線を送る「アーティスティック・インターベンション」とは何か?
第2回 仏ビジネススクールで誕生したアートとビジネスを融合する方法とは?
第3回 チキンラーメンとウォークマン誕生に見るイノベーション創出の秘訣
■第4回 グーグル、3Dプリンター、SNS、アメリカ発のイノベーションの威力とは(本稿)
第5回 ベル研究所、ヤマハが導入するアーティスティック・インターベンションとは?


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イノベーション創出にみられる「アート思考」――米国企業の事例

 米国においては、日本が失われた30年に陥った1990年以降も、GAFAなどのIT企業をはじめ、多くの企業がイノベーションを創出し続けています。次に、米国企業のイノベーションについてみてみましょう。

■「アート思考」の事例③ グーグルの検索エンジン

 グーグルの創業者、セルゲイ・ブリン(Sergey Mikhailovich Brin)とラリー・ペイジ(Larry Page)は、1990年代半ば、スタンフォード大学の学生でした。ブリンはデータマイニングの研究を、ペイジは電子図書館プロジェクトの研究をしていました。

 このとき、当時、米国の代表的なコンピュータ企業だったデジタル・イクイップメント・コーポレーション(DEC)から画期的な検索エンジン「アルタビスタ」が発売されました。この検索エンジンは、インターネット上でウェブページの全文検索を行なうという新しいタイプのものです。ペイジがアルタビスタで検索してみると、検索結果に、一見何のことなのかよくわからない「リンク」がついていることに気がつきました。

 アカデミアの世界では、新しいコンセプトを提示した論文ほど、他の多くの論文から引用され、重要度が高いと判断されます。ペイジは、ウェブサイトも、他の多くのサイトからリンクを貼られているかどうかで、サイトの重要性を測定できるのではと考えつきました。検索した情報そのものではなく「情報に関する情報(メタ情報)」に着目したことで、これまでにない画期的な検索エンジンを開発することができたのです。

※参照
ウイリアム・ダガン『戦略は直観に従う ―イノベーションの偉人に学ぶ発想の法則』東洋経済新報社(2010)
高野研一『超ロジカル思考――「ひらめき力」を引き出す発想トレーニング』日本経済新聞出版社(2015)
榎本幹朗「Google 誕生と、世界を変える三つの条件~ iPhone 誕生物語(3)」

 ペイジとブリンが考え出したコンセプトは、検索サイトを創ることをはるかに超えていました。多くの支持を集めているものが重要という、人間の感覚に即したコンセプトを検索エンジンの中に取り組むことで、人間の脳によく似た情報の選び方をするようになったのです。彼らが抱いている究極のコンセプトは、「質問が頭に浮かんだ瞬間に、答えを渡せるのがグーグルの理想だ。人間と同じくらい賢くなる必要がある」というものです。

 アルタビスタの検索結果に興味をもち、論文のランクの仕組みと組み合わせて考えることで思考を飛躍させて、人間の脳と同じように機能する検索エンジンという革新的なコンセプトを創出したところに「アート思考」をみることができます。

 ペイジとブリンが、作成した検索エンジンの試作品をスタンフォード大学内で使用してみたところ、非常に評判になり特許を申請しました。しかし、当初彼らは自ら検索ビジネスを行なうことは考えておらず、アルタビスタやヤフー、エキサイトなどに、自分たちが作った検索エンジンの特許を売ろうとしました。当時は、検索は事業として注目されておらず、誰も特許を買ってくれませんでした。

 1998年8月、サン・マイクロシステムズの共同創業者でシスコシステムズの副社長であるアンディ・ベクトルシャイムが出資してくれたことで、2人は休学を決意、自ら事業を始めることにしたのです。いまやグーグルは、世界検索エンジン市場シェア率は91.88%と圧倒的になっています(2022年6月時点 ※13)。個人の興味を起点とした革新的コンセプトからできたサービスが、私たちの生活になくてはならないものにまで広まった事例です。

※13 「【2023版】トップ検索エンジン市場シェア」