人材を成長の起点に据える「人的資本経営」が注目されているが、日本企業にとっては、まだ緒についたばかり。経営戦略と結びつき、人事部門と事業部門をまたぐ広範な取り組みとなるため、本腰を入れたいものの、どこから、どう始めたらよいかわからない企業も多いのではないだろうか。 

 本連載では、デロイト トーマツ コンサルティングにおいて人材変革を手掛けるコンサルタントが、人的資本を中心に据えたこれからの経営改革について実務の視点で徹底解説。第3回は、人的資本経営の推進に欠かせない情報基盤の構築法と、少し時代を先取りした未来型のHRテクノロジーやデジタルプラットフォームについて解説する。

(*)当連載は『「人的資本経営」ストラテジー』(デロイト トーマツ グループ 人的資本経営サービスチーム著/労務行政)から一部を抜粋・再編集したものです。

<連載ラインアップ>
第1回 「人的資本経営」成否の鍵を握る?「人的資本中計」とは何か
第2回 未来型CHROの役割とは?これからの人的資本経営で求められること
■第3回 人的資本経営を支える「未来型」HRテクノロジーの姿とは(本稿)
第4回 人的資本経営に不可欠な「データの標準化」が、日本企業でうまく進まない理由


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1 人的資本経営を支えるデータとテクノロジーとは

 2022年8月に、内閣官房 新しい資本主義実現本部事務局により提示された「人的資本可視化指針」においては、人的資本の可視化に向けた基盤・体制確立の一環として、情報基盤の構築も挙げられている。

 人的資本への投資を進め、企業価値向上につなげるためのさまざまな取り組みやその進捗(しんちょく)を図る上で、また、モニタリング指標とそれに対するデータの集約・加工・集計を効率的に進めるために、情報基盤の構築は当然必要となるものだ。この準備が遅れると、肝心な人的資本開示に向けたオペレーションの確立が遅れることになり、開示のための非効率な業務に多くの人的資本の貴重な時間・工数が都度割かれることになる。そのため、情報システム投資を含め早期に計画して推進することが望ましいことに、疑う余地はないであろう。

 一方で、人的資本経営を支える情報基盤、すなわちテクノロジー基盤(IT・デジタルソリューション)やデータは、開示に向けた実務の合理化・効率化を図ることを目的にするだけで十分かというと、そうではないはずである。

 人的資本への投資を企業価値や競争力の向上に着実につなげていくためには、多様な人材が継続的に能力を高め、必要な変化に適応するために学び直したり、健康でサステナブルに働いたり、エンゲージメント高く職務に臨み、成長を図ったりするための仕組みを整える必要がある。人的資本経営を支える情報基盤も、そういった目的を果たすために設計・構築されるべきである。

 本章では、開示目的への直接的な対応とは異なる視点で、人的資本経営推進のための情報基盤の方向性、ならびにそのような基盤を構築・活用していくための最適なアプローチについて考えていきたい。

 なお、デロイト トーマツ グループが2022年8月に公開した「人的資本情報開示に関する実態調査」では、回答企業92社の半数以上である53%が、「データの収集・分析を一元化するシステムやツールが整備されていない」ことを、人的資本情報の測定・開示に向けた具体的な検討・取り組みを進める上での制約・課題としている。本章で考察する情報基盤は、人的資本経営を推進する過程における、人材のサステナブルな働き方や成長を支援するものと位置づけている。そういった基盤が整備されることで、情報基盤上で生み出されるデータが充実し、また、分析ツールを統合することで、開示のためのモニタリング指標に対する情報の効率的・網羅的な分析を結果的に助けることも考えられる。よって、本章で提示する方向性で取り組みを進めることは、制約・課題の解消にも寄与すると考えている。