企業にとって株主価値の最大化のみならず、パーパスドリブンマーケティング の重要度が高まっている。その方法として注目されているのが、ブルーオーシャン戦略の最新の研究成果である「非破壊的イノベーション」だ。

 非破壊的イノベーションは、どうすれば実現できるのだろうか。本講演では、早稲田大学大学院 経営管理研究科 ビジネススクール教授の川上智子氏が、マーケティングイノベーション、ブルーオーシャン戦略の2つの切り口から解説する。

 アジア・マーケティング学者トップ100への選出(2017)、フィリップ・コトラー氏(ノースウエスタン大学 ケロッグ経営大学院 マーケティング学 名誉教授)とのWorld Marketing Summit共演(2019)、海外のビジネススクールでの客員研究員など、精力的な研究活動をベースに語られる内容に注目していただきたい。

※本コンテンツは、2022年12月14日(水)に開催されたJBpress/Japan Innovation Review主催「第7回 Marketing &Sales Innovation Forum」の基調講演「パーパス・ドリブン・マーケティングと非破壊的イノベーションの探求~より良い社会の実現に向けて~」の内容を採録したものです。

マーケティング5.0――“文脈”をつくり“価値を創造”する時代へ

 川上氏によると、自身の専門分野であるマーケティングは「新しい市場の価値、そして新しい市場そのものを創造していく役割を担う。実はイノベーションと非常に深く関わり、不可分の関係」と説明する。

 その川上氏にとって、「マルチステークホルダー資本主義」「コンシャスキャピタリズム」あるいはSDGsがマーケティングにとって身近な存在になったことは驚きであり、とりわけ企業の存在価値・意義の点から「マーケティング活動や経営はいかに行われるべきか」といった議論が、世界中で盛んに行われ、もはや特別なことではないことに感銘を受けているという。

「マーケティング5.0時代」に突入した今、マーケティングについての考え方は1つの方程式 にまとめることができる(下図)。

「顧客の知覚価値」は「機能的価値」と「情緒的価値」に二分することができる。前者は言語や数値で表現できるもの、後者はそれが難しいものと考えると分かりやすい。顧客の知覚価値は、ベネフィット(便益)をコストで割ったもの、つまりコストパフォーマンスがよければ価値が高いとされる。ここで肝心なのは、この方程式をコンテクスト(文脈)が下支えしているということだ。

「コンテクストが一緒に提供されないと、どんなに良いモノ・サービスをつくっても、それが評価されるとは限りません。『コンテクストをいかに作るか』という活動こそがマーケティングの役割です。私たちがマーケティングで行うことは価値創造です。それが市場で評価されると、次のコンテクストになります。社会の中で、結果によりコンテクストも変化していきますが、その動きの中で、修正をし方向を定めていくということが、マーケティングの面白さであり、難しさでもあるわけです」