私が山翠舎に入社した2004年当時、SDGsという言葉はまだ使われていませんでした。
サステナビリティ(Sustainability=持続可能性)という概念も、まだまだ一般的ではなかったように思います。ただ、古民家の解体に立ち会った私には、「素晴らしい古民家や古木に対し、こんなひどい扱いをしてもいいのだろうか……」という思いが深く刻まれたのでした。
同時に、古民家に住んでいた方々の気持ちはどうなっているのかとも想像しました。その家に縁もゆかりもない私ですら、解体時にはかなりのショックを受けるのですから、その家の住人は、たくさんの思い出が詰まった家を解体され、大きな喪失感にさいなまれているのではないだろうか……。
そう考えた私は、古民家や古木を再生させつつ、そこに住んでいた方の気持ちにも寄り添えるビジネスを立ち上げようと模索を始めました。
それから20年近くが過ぎ、古民家・古木ビジネスは飛躍的な成長を遂げています。その一例が、彩本堂であり合間であるのです。
小諸で生まれつつある正のスパイラル
彩本堂や合間、そして旧北国街道の周辺で起きているのは、「ステキな店や居心地の良い場所が一つできた」というような、単発の現象ではありません。そこには、ある種の「循環」が生じています。
地方には、人口が減って売り上げが落ち込み、廃業に追い込まれる店がたくさんあります。そして多くの店が閉じられ、商店街がシャッター通りになると、地域の利便性が低下してさらに住民の流出を招いてしまいます。
いわば、負のスパイラルが止まらなくなるわけです。
これに対し、小諸のように集客の核となる店がいくつか登場すると、その地域への注目度は高まります。そして、お目当ての店を訪れた観光客が他の店にも立ち寄るなどして地域経済にプラスの影響をもたらした結果、さらに新たな開店をもたらすのです。また、店の開店は新たな雇用を生み、定住者アップにも役立つでしょう。
現在の小諸では、彩本堂のように魅力的な店が増えたおかげで、正のスパイラルが生み出されています。これが、私たちの狙いです。