壊され、ただ捨てられていく古民家と古木を再生する

 私が古民家や古木のビジネスを手がけ始めたのは2006年、父が率いていた山翠舎に入社してからしばらく経った頃でした。

 大きな転機となったのは、長野の解体現場で衝撃的な風景を目にしたことです。古いが、いかにも歴史があって見事な古民家がなんのためらいもなく壊されていました。

 私は子どもの頃、自宅の前にあった父が経営する木工所でよく遊んでいましたが、そこでは捨てられていた木の端材や竹を使い、いろいろなものをナイフとのこぎりでつくったものです。

 また私は、小さい頃から環境問題にも関心を持っていました。森林の伐採や油による環境汚染などのニュースを見ると、どうにかならないものかと胸を痛める子どもだったように思います。そんな思いが高じ、大学では省エネルギーに関する論文を2本書きました。そんなバックグラウンドを持つ私にとって、長年使われてきた古民家が無慈悲に壊され、あっという間に廃材にされていくのは強烈な光景でした。

 百年以上昔の日本において、木は貴重な資源でした。

 今なら重機を使って木を伐採し、トラックに積んで輸送することができます。しかし昔は、斧で切った木を人力で川まで運び、筏(いかだ)を組んで下流にある貯木場まで輸送していました。

 作業には手間と時間がかかりましたし、危険でもありました。ですから、当時は古くなった家を取り壊して新たな家を建てる場合、丁寧に解体作業を行って古木を良い状態で取り出し、新しい家に流用するのが当たり前だったのです。

 ところが戦後になり、海外から輸入建材が大量に入ってくると、状況が変わります。

 古木を手間ひまかけて解体し、きちんとストックするよりも海外の建材を使うほうが、効率もよく安く済むようになったのです。それで古民家は壊され、古木は容赦なく捨てられるようになりました。