レトロとモダンを同時に楽しめる空間づくり

 彩本堂から50メートルほど離れた旧北国街道沿いにオープンしたのが、山翠舎が運営するコワーキングスペース「合間(aima)」です。

 合間が入っている建物はもともと、明治30年代に建てられた旅館でした。その後は何度か改築されて魚屋や商店、下宿などとして使われ、2022年5月にコワーキングスペースとして再生されたという経緯です。1階と2階に合計45席が用意されていて、企業や個人利用者がデスクワークやミーティング、研修などに利用しています。

 また、小諸に移住したり、ワーケーションで長期滞在したりしている人などが集まり、交流する場として使われるケースも少なくありません。館内には、まるで隠し部屋のような和室や多くの本が所蔵されている書棚、飲食できるスペースなどが用意されていて、働くだけでなく、語り合ったり休んだりすることもできます。

 ここ数年、古民家への注目が高まっています。

 スローライフや田舎暮らしに憧れる人が増え、地方に残されている古民家での生活を望む人が増えていること。古い木やしっくいの壁など、古民家が醸し出す雰囲気に居心地の良さや温かみを感じる人がたくさんいることなどが、主な理由でしょう。

 そして、コロナ禍によってリモートワークが一気に普及したことで、古民家に関心を持つ人はさらに右肩上がりになっていると、私は感じています。それで、彩本堂や合間のような古民家を活用してつくられた施設にも、注目が集まっているわけです。

 ただし彩本堂や合間は、単に古いだけの建物ではありません。例えば彩本堂では、ミニ盆栽を飲み物と一緒に出し、コーヒーと盆栽のペアリングを楽しんでもらうという新たな試みを行っています。

 また、サイフォンで抽出する様子を楽しんでもらいつつ新型コロナウイルス対策を万全にするため、カウンターの内外をガラス製の可動仕切りで分けるなどの工夫も施しました。合間でも、QRコードを使って入退出ができるようにするなど、現代のテクノロジーをフル活用して管理の手間を小さくするよう工夫しています。

 山翠舎が手がける建物は、古いものを再生するだけではありません。古くて捨てられていくものに磨きをかけ、新たな価値を生み出そうとしているのです。