SDGs時代に求められる「誰一人取り残さない」タレントマネジメント

 さて、ここまで述べてきたタレントマネジメントは「競争優位の確立および持続的成長に必要な人材=タレント」と捉えるものであったが、実はもう一つ、別の考え方がある。それは「従業員“全員”=タレント」と捉えるものである。

 そして、これからの時代は後者、すなわち「従業員全員を自社にとって貴重な人材と捉え、各人が最大限のパフォーマンスを発揮できる状態を目指す」タレントマネジメントが求められるのではないかと考える(なお、後者は当然に前者を含むものである)

 そう考える理由の一つは経済合理性の観点によるものである。日本は周知の通り、年々、人口が減少しており、マクロで見れば働き手不足の状態が恒常化するものと推測される。そうした労働力の希少性が高まった社会において、企業は労働生産性を高めることが必要不可欠であり、そのためにも全ての従業員が働きがいを感じながら意欲的に仕事に取り組む状態を目指す必要がある。

 もう一つの理由は倫理的な観点によるものである。現在、SDGs達成に向けた取り組みが世界規模で行われているが、このSDGsの基本思想に「誰一人取り残さない」という考え方がある。

 これは決して発展途上国や貧困の問題だけを念頭に置いたものではない。一企業のレベルでも「誰一人取り残すことなく」全ての従業員の力を高め、また各人が個性を発揮し活躍できる機会を提供することが求められていると解釈するのが妥当である。

 以上、本稿では人的資本の充実に向けた一テーマとして「タレントマネジメント」を取り上げた。人的資本の情報開示を契機に計画・測定のステップを整備し、PDCAサイクルを通じて人的資本充実化の取り組みを着実に進められることを期待したい。

コンサルタント 大久保秀明(おおくぼ ひであき)

ラーニングコンサルティング事業ユニット
HRM革新センター チーフ・コンサルタント

大手ホテルチェーン、金融業界を経て入社。現在は人材マネジメント領域のコンサルタントとして、数多くのクライアントを支援。
支援業界は、不動産、食品、化学、建設、運輸、ホテル、金融、官公庁など多岐にわたる。