従来から経営課題の中でも常に上位を占めてきた「ES(Employee Satisfaction)」や「働きがい」「エンゲージメント」というテーマは、どう変わっていくのか。「EX(Employee Experience)」という考え方で働きがい向上のさらなる拡張と強化を図っていくために、前編では株式会社ニチレイの事例を紹介した。
後編では、学術の観点から東京都立大学の高尾義明教授のジョブ・クラフティングに関する考え方を紹介する。
※このコラムは(株)日本能率協会コンサルティング主催のオンラインシンポジウムの講演内容を元に再編集した。
高尾義明 氏
京都大学教育学部教育社会学科卒業。
大手素材メーカー勤務を経て、京都大学大学院経済学研究科修士課程・同博士課程修了。博士(経済学)。2009年4月より現職。専門は経営組織論・組織行動論。組織学会評議員、経営哲学学会理事、社会・経済システム学会理事。著書に『はじめての経営組織論』(有斐閣)、『組織と自発性』(白桃書房)、『経営理念の浸透』(共著,有斐閣)など。近年はジョブ・クラフティングの研究を精力的に行う。
EXとジョブ・クラフティングの関係
それではまず、ジョブ・クラフティングからEXを創ることがなぜ重要なのかを大局的な観点から紹介しよう。
働き方を巡る最近の変化として、働き方改革の推進がある。一般的には業務の効率化、多様な働き方のための柔軟性が各社での共通項だろう。加えて、コロナ禍対策としてリモートワークなどの施策を打たざるを得なくなっていると思う。
その影響で起きているコミュニケーションの希薄化を実感されている方も多いのではないだろうか。日常のさりげないところでヒントを得たり、仕事の意味に気付くといったようなコミュニケーションが以前ほど濃厚にできなくなった。
同時に、自律的に働きたい、働いてほしいという期待も高まってきた。自律的に働くというのは、誰かが見ていなくても自分で目標を立て着実に遂行し、必要なコミュニケーションが自分でできる、ということである。自律的に働くからこそ、働きがいの源泉とも言えるような仕事の意味も自分で見つけていく必要性が高まってくる。
このような変化の結果、従業員としての体験価値、つまりEXを自分で高めていく・自分で創り上げていく力が求められている。もちろん、会社ができることは多くあるが、会社はあくまでいかに支援するかという立場であり、働きがいはそれぞれの人が見つけていかなくてはならない。
そのためのキーワードが「ジョブ・クラフティング」である。