未知のリスクを含む不確実な環境下では、短サイクルでの生産管理、短リードタイムでのものづくり、スピード感を持った改善活動が必要である。解決のキーワードは「リードタイム短縮」。スピード経営を実現させるには、事業特性、生産形態に応じて適切にリードタイムを把握し、各プロセスにおいてリードタイムが長期化する要因を分析し、解決策を見いだすことが重要である。そのための具体的な考え方、取り組みを紹介しよう。

スピード経営実現のために現場に求められること

■これまでの管理サイクル、改善スピードでは環境の変化に対応できない

 経営の多角化、市場ニーズの多様化、技術革新が進む現代においては、短いサイクルで事業や製品の変化が起こり、そのスピードに管理が付いて行けないと、結果として欠品による機会損失や過剰在庫が生じてしまう。

 この10年間を振り返ってみても、東日本大震災をはじめとして、豪雨災害、台風被害、そして今回の新型コロナウイルスなどがあり、これから先、どのような想定外の事態が起こるかは誰も分からない。これからも何年かに一度はサプライチェーンの寸断や想定外の変化が起こる可能性は高い。

 スピード経営とは、事業環境の変化に対して、情報収集、意思決定、実行のプロセスを迅速に回していくことであり、ものづくりでいえば、生産管理がその基盤になるといえる。これまでの生産管理の発展を歴史から振り返ると、成長戦略や効率化戦略に基づくQCD(Quality:品質、Cost:コスト、Delivery:納期)向上を狙いとした急成長を支える生産管理から、適正化戦略に基づきキャッシュフロー向上を狙いとした持続成長を支える生産管理へとシフトしてきている。

 その中で特に見込み生産型の生産管理のサイクルは、月次計画を中心に月内の仕事量を一定にして、安定的なものづくりを行う形態をとる企業が増えてきた。また、近年では、成長の鈍化や競争の激化の中、在庫や設備の適正化を進めるために、週次計画による計画調整などを図り、変化への対応に取り組んできた。

 一方、リードタイム短縮については上手に進められない企業が多く見られる。そうした企業では、リードタイムが把握できていない、リードタイムの内訳の分析もできていない、など基準リードタイムの設定が不十分なことが多い。

■リードタイムが長くなる要因

 リードタイムとは、一般的に発注してから納品されるまでの期間、受注してから出荷するまでの期間などさまざまな捉え方があるが、スピード経営の実現につなげるためには、事業特性、生産形態に応じて適切に把握する必要がある。

 個別受注生産型の場合は、受注から始まり、開発・設計、手配、調達、製造(加工、組立、検査、出荷など)、物流といったプロセスとして生産期間(トータルリードタイム)を捉える必要がある。

 生産期間内に開発・設計プロセスが必要な個別受注生産型の場合、開発・設計期間の長期化が全体期間の長期化に大きな影響を与えるケースが少なくない。営業担当者による受注仕様把握が不十分なため設計要件が明確にならないことや、設計業務のマネジメント力不足により出図納期遅れが発生するなど、受注を受けてから各業務が始まる特性上、計画的な対応ができず、結果としてリードタイムが長期化してしまう。

 一方、繰返し生産(見込み生産)型の場合は、トータルリードタイムの把握を、受注からではなく計画から含める必要がある。計画、手配、調達、製造(加工、組立、検査、出荷など)といった物流プロセスが対象となるが、見込み生産という特性上、計画プロセスに時間や手間がかかる場合が多い。需要の変化、受注内容の変更などが生じることで、部門間の調整、生産計画修正を繰り返すなどの業務も発生し、非効率な実態もある。

 また、個別受注生産型でも繰返し生産型でも、資材調達リードタイムは、トータルリードタイムの中で大きな割合を占めることが多い。発注元と発注先サプライヤーの計画タイミングのズレにより、直近の計画に反映できずに翌月計画への持ち越しになるなど、さらにリードタイムが長期化することがある。

■リードタイム短縮の糸口と解決策

 それでは、リードタイムが長くなる要因を踏まえ、リードタイム短縮の糸口と解決策について2つの視点から紹介しよう。

【視点1】リードタイム構成の変更

 例えば、これまで個別受注生産として、受注してから設計、生産を行っていた製品を、仕様の統一化や部品の共通化などを含めて、見込み生産型へシフトするなどストックポイントを変更する施策である。顧客要求リードタイムへの対応と負荷平準化のために、ストックポイントを設定し、見掛け上のリードタイムを短縮することが可能となる。

【視点2】資材調達リードタイムの短縮

 資材調達リードタイム短縮のポイントは、計画リードタイムを短縮し、先行手配、先行工程確保によってサプライヤー側のリスクを最小限にすることであり、これが本質的な改善策である。サプライヤーヘの先行内示のほか、主要取引先に対してはオンラインによるリアルタイムでの販売計画情報の共有化など、早く正確な情報伝達と、引き取り責任の明文化などによる信頼関係の構築が重要である。

 こうした取り組みの発展的な形態としてVMI(Vendor Managed Inventory:納入業者在庫管理方式)があり、多くの企業間で活発化している。

 このような仕組みを円滑に機能させるためには、社内の所要量展開、在庫計画、発注処理といった、ペーパーリードタイムを改善し、サプライヤーとの情報連携を無駄なく行うことが不可欠である。

変化に強い生産管理、ものづくり現場とは

■S & OPによる中長期マネジメント

 変化に強いものづくり現場に重要な観点は、まず中長期マネジメントの視点である。その代表的な取り組みとして、S&OPが挙げられる。S&OP(エスアンドオーピー:Sales & Operation Planning)とは、事業戦略に適合した最適オペレーションを実現するために、事業ユニット/サプライチェーンユニット単位での財務評価に基づき、事業/販売計画とサプライチェーン計画の整合性を図る統合計画である。

 中長期経営計画や予算段階でサプライチェーン構造の見直しやストックポイントの再構築などを判断し、対応を含めた戦略的在庫保有や生産・在庫拠点の分散化、内外作編成の再設計など、ものづくりにおける基本構造自体を中長期的な視点から見直すことが重要である。

 そしてさらに、中長期マネジメントに連動させて、短期マネジメントのスピードも上げていく必要がある。

■MESやIoT活用による短期マネジメント

 短期マネジメントでは、実績データ、需給予測データなどデータを用いてシミュレーションを行い、その結果を踏まえ、リアルタイムに意思決定し、生産・調達に反映させる。

 最近では、リアルタイムに実績収集を行う仕組みとして、MES(エムイーエス:Manufacturing Execution System、製造実行システム)やIoT(Internet of Things)が注目され、ものづくりの現場で生じている問題や出来事を迅速に把握し、製造実行システムとして、製造工程の可視化や管理、作業者への指示や支援などを行う情報システムとして活用が進んでいる。IoTについては、今後さらなる発展も期待されており、工場全体、サプライチェーン全体がデジタル化され、デジタル上でのシミュレーションや問題解決により、改善スピードを劇的に上げる効果も期待できる。

 ただし、これらのデジタル技術を有効活用するためには、生産管理に関連する基準情報の整備、運用、メンテナンスの取り組みが重要である。例えば、生産計画に使用している計画標準は、生産試作、生産準備段階での評価に基づき、生産技術部門で初期設定するケースが一般的であるが、それらの精度が低いと、無理な生産計画が立案されることになり、結果として計画通りに生産できない。このように、デジタル技術を活用するためには、それらの基盤となるルールや運用の徹底が重要であり、デジタル化を進める上での前提条件となることは言うまでもない。

 これからの変化を乗り越えていくためにも、最新のデジタル技術を活用し、スピード経営を実現する現場づくりをぜひ目指してほしい。

コンサルタント 茂木龍哉 (もぎ たつや)

サプライチェーン革新センター センター長
シニア・コンサルタント

生産、物流機能領域を中心に、在庫適正化、生産管理システム導入、コストダウンなどのコンサルティングを行う。サプライチェーンマネジメントの視点から、現場改善から経営改革に至るまでの幅広い場で改革・改善活動を支援。製造業の人材育成にも積極的に取り組んでおり、自律的継続的改善ができる職場づくり、そのための教育プログラム開発など数多くのプロジェクトに参画。主なコンサルティングテーマは「生産管理システムの設計・再構築」「在庫削減のための改革立案および実施支援」「現場の生産性向上・製造原価低減余地診断」「物流コスト低減のための3PL業者選定支援」「SCM改革の基本構想立案」など。共著に『物流改善ケーススタディ65 コストダウン、作業効率を徹底追求』『続・物流改善ケーススタディ65 コストダウン、作業効率を徹底追求』(いずれも日刊工業新聞社)、『図解 ビジネス実務辞典 生産管理』(JMAM)、『生産管理のべからず89』