これからのものづくりは戦略と実行力

 新型コロナウイルスの感染拡大は、経済や社会のさまざまな活動に大きな影響を与え、製造業においても部品調達ができず生産が停滞するなど混乱が見られた。

 国内製造業は、生産編成の見直しにより生産の国内回帰が進むとしても決して楽観できず、勝ち残るためにはQCDレベルと変化対応スピードの断トツ化が求められる。今後は断トツ化を迅速に推進できる企業と対応が遅れる企業との差が鮮明となり、優勝劣敗が進むことが想定される。

 だからこそ、この新型コロナウイルスの時流をものづくりの根本から見直すチャンスとして位置付け、自社の戦略と実行力の断トツ化を図り、変革すべきである。

断トツ化を実現する戦略

 製造部門長が考えなければいけないのは、自社の強みを活かし、何を、どのレベルで提供すれば勝てるかという戦略である。

 国内生産をするということは、断トツのQCDレベル(段違いな優位性、変化対応力など)が条件となることを肝に命じ、製造戦略を検討すべきである。製造戦略は、短期的な目標だけでなく、中長期な視点に立って検討することが重要であり、正しい情報・データを収集して的確に分析し、戦略を検討して議論を尽くし、迅速に意思決定する必要がある。

 では、製造戦略策定のポイントについて、ステップに分けて紹介しよう。

■ステップ1:情報を分析する
 情報分析は、最初にバリューストリームマップを作成し、情報やモノの流れを整理して、「どこ」に「どのような」問題があるのかを考える。

 今後、どのような環境変化が想定され、自社およびサプライチェーンにどのような影響を与えるかを予測した上で、既存顧客の潜在ニーズの変化・新規顧客獲得の可能性・顧客の要求事項・要求レベルを検討する。

■ステップ2:目指す姿の検討と目標の設定
 次に、自社の目指す姿を検討し、顧客ニーズを満たし競合に対して圧倒的な競争優位性で勝てる挑戦的な目標を設定する。目指す姿は、既存の枠組みだけではなく、垂直統合や水平統合など広い視点から検討することが重要となる。

 垂直統合では、機能を自社(自工場)に集約することで、工程間の滞留や物流期間を改善し、リードタイム短縮や製造拠点間移動の物流コストを削減が可能となる。また、設計仕様面からの問題解決アプローチによる品質向上につなげたり、重複する検査や作業を削減し大幅なコストダウンを実現を検討する。

 水平統合では、各製造拠点や各社で製造していた製品を拠点集約することで設備稼働率向上を図り、共同物流や共同購買、共通設備メンテナンスについて、効率的な運用ができないか検討する。

 目指す姿の実現に向けた「勝つための戦略」の策定は、ターゲットとする顧客に対して、何の価値(サービスや製品・部品)をどのように提供するかを決めることが重要となる。どこの製造拠点で、どんな技術・設備を使い、どの人材・材料を使用すべきか、競争優位性につなげるための最適値を駆使し、製品やサービスを提供する必要がある。

■ステップ3:柔軟性を持った意思決定を
 不足する経営資源の強化は、自社の能力向上を図ることに加えて、外部リソースの活用も含めて検討することがポイントとなる。何を自社のコアとして競争優位性を構築するかを考え、スピード感を持って対応するためには、社外との連携やM&Aなども検討し、意思決定することが重要である。

 また、不可逆性を考慮しつつ迅速に決めることもポイントで、意思決定を躊躇している間に事業環境が大きく変化し、気が付いたら手遅れということにならないように、スピード感を意識し、タイミングよく意思決定すべきである。

 リスクを最小限にとどめながら最大効果を出すためには、思い切って意思決定するが、頻繁な変化への対応も十分に考えておく必要もある。大きな投資をする際には、常に不確実な環境、不可逆性を考慮し、周辺の環境を注意深く観察しながらアクセルとブレーキのタイミングを見極め、前に進むことが重要となる。

ものづくりの基盤となる問題解決力を強化する

 不確実な環境下で最も重要なことは、ものづくり基盤の強化である。問題の再発防止、未然防止、新製品の一発良品立上げ、量産品の直行率100%など、現場の能力が高ければ、あらゆる変化に即応することが可能になる。

 ものづくり基盤の強化は、どんな環境においても必要な能力で、環境が変化しても無駄になることはない。現場の問題解決能力が高いことが、柔軟対応を促進し、競争力向上を構築することになる。設備自体はお金を出せば、他社と同様の機能を保有できるが、ものづくりの基盤は、人・組織・体質の変革が生産レベルを高めることにつながるため、模倣しにくい。これこそが本当の意味での競争優位性といえる。

 問題解決力は生産技術部門、製造管理者などの一部の人を強化すればよいというわけではなく、製造部門の全員が、それぞれの役割を認識し、問題解決を推進することが重要である。製造部門長だけではなく、管理者、現場の担当者までが一体となって取り組まないと、厳しい競争に勝つことは難しい。

 製造部門長は勝てる戦略を「絵に描いた餅」にしないためにも、部下と目指す姿を共有し、戦略の意図を理解させ、具体的な行動計画に反映する必要がある。

 そのためのポイントとしては
①広い視点で将来の事業環境変化を見据える
②ボトルネックとなる経営課題を整理する
③勝てる戦略を立案して成果に直結する業績目標を設定する
④達成するための個別成果目標に展開していく

 である。

 有効施策を検討する際には、これまでの方法をゼロベースで最適な方法は何かという視点で検討することが求められるため、妥協することなく、「ありたい姿」「あるべき論」を部下に問い掛け、生産革新を推進する。

マネジメントサイクル高速化で圧倒的スピードで実行する

 事業環境変化が激しい中でのマネジメントは、高速サイクル化がポイントとなる。月次の進捗管理ではチャンスを逃し、ピンチへの対応が遅れることになる。

 製造部門長は、常に事業環境変化をモニタリングし、「本当に顧客を満足させ、競争優位性を確立できているのか」を自問自答することが重要となる。少しの判断の遅れが投資の有効性に影響し、現場のガンバリが水の泡となってしまう可能性があるため、スピード感を持った対応でリスク低減と機会創出する必要がある。

 管理者は、現状の計画・推進状況で目標達成可能か管理し、達成が難しいようであれば、自部門以外の能力も活用して、目標達成するための次善策を検討し迅速に実行する。施策の重要性を現場担当者に理解させ、成果と期限のマイルストーンを共有・実行し、高速マネジメントサイクルで成果創出することがポイントとなる。

 また、平常時は階層的なマネジメントで各職が役割を発揮する仕組みを構築することが効率的であるが、問題発生時は関係者全員が一堂に会し、フラットに情報を共有して、迅速に問題解決に取り組む方が、意思伝達の精緻性、効果創出の即効性の面でも有効である。このように状況に合わせてギアチェンジし、柔軟にマネジメントスタイルを変容させることがポイントとなる。

 マネジメントの高速サイクル化が常態化して実行力が向上し、現場の問題解決スピードが迅速化すると、変化が激しい環境に柔軟対応した生産が可能になる。そして、「勝てる戦略」を「圧倒的スピードで実行」する断トツ化を競争優位として、持続的に価値創出できる企業に変革できると考える。

コンサルタント 今井一義(いまい かずよし)​

生産コンサルティング事業本部
副本部長 シニア・コンサルタント

2003年、日本能率協会コンサルティング(JMAC)に入社。製造メーカーのコストダウン、製造現場の生産性向上、人材育成のコンサルティングの経験を活かし、農業経営の改革・改善に取り組んでいる。「企業的農業経営が『魅力ある農業』を実現する」を信念に、製造現場の改革・改善手法を農業分野に展開。製造現場でのノウハウを活用し、現場の効率化によるトータルコストダウンに加え、栽培~加工~販売のフードチェーン全体の最適化を中心に活動。農業経営改革を推進している。