「人的資本」という言葉をさまざまな情報媒体で目にすることが多くなっている。企業価値を高める目的でソフトウエアや研究開発、ブランドなどの無形資産への投資に関心が高まっているからだろう。
このように人的資本が注目されている背景には、人を消耗していく「資源」と捉えるのではなく、人に期待を寄せて投資することにより新しい価値を生み出す「資本」であると捉える、全ての人の人権を尊重することへの意識の高まりがある。
ここでの資本とは、価値を生み出す仕掛けという考え方である。企業経営にとって人とは新しい物事を生み出すための仕掛け、大素(おおもと)であることを示している。
人的資本への投資が重視され始めた
SDGsの目標達成の手段として、“E”nvironment(環境)、“S”ocial(社会)、“G”overnance(企業統治)を重視した企業活動が求められており、その活動は企業に対する投資行動にも大きく影響するようになった。ESGを重視した投資行動の中の“S”ocial(社会)で重視すべきことに挙げられているのが、この「人的資本」への投資だ。
人的資本への投資、人的資本の充実への取り組みは、一組織・一企業の価値を高めるだけにとどまらず、社会課題の解決につながるということが広く認識されている。すなわち、人的資本の充実に真剣に取り組み、情報を開示する組織・企業は、世の中に貢献する存在として認められる時代になっているといえる。
人的資本に関しては、社内外への人事・組織に関する情報開示のガイドライン「ISO30414」が2018年12月に出版され、国際的にも注目されている。日本では「人材版伊藤レポート」(「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会報告書」)で議論されている、企業の持続的な価値向上に向けた経営戦略と人材戦略の連動などの提言が組織の重要な課題としての意識付けに影響を与えている。