タレントマネジメントを通じた経営戦略と人材戦略の連動
「企業の持続的成長には、経営戦略と人材戦略の連動が不可欠である」
これは2020年に発表された「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会報告書(人材版伊藤レポート)」の中でも特に強調されているメッセージの一つである。これに異論を唱える人は少ないだろう。
とはいえ、人材マネジメントに長く携わってこられた方にとっては決して目新しい主張ではない。たとえば、「戦略的人的資源管理」という概念は以前から存在するし、実務的にも人事制度や人事施策を検討する際に経営戦略を考慮せずに行うことはないはずである。
それでも人材版伊藤レポートのメッセージがある種の“啓蒙的効果”をもたらしたのは、
・人材を「人的資本」、つまり持続的成長のために投資すべき対象として捉え直していること
・人的資本こそが、持続的成長をもたらす源泉の中核であると明確に述べられていること
によるものと考えられ、「自らの職務の意義をあらためて再認識できた」という人事部スタッフも多かったのではないだろうか。
その一方で、では具体的に「経営戦略と人材戦略を連動させる」にはどうすればよいのかが、多くの実務家にとっての関心事であり、頭を悩ますところであろう。その答えが本稿で取り上げる「タレントマネジメント」である。
タレントマネジメントとは「競争優位の確立および持続的成長に必要な人材を確保するための仕組み」と定義できる。まさに経営戦略と人材戦略をつなぐかぎとなる概念・方策である。検討手順は以下の通りである。
① 競争優位の確立および持続的成長に必要な人材の明確化
①-1 自社のビジネスモデルにおける“強み”を支える組織機能
①-2 当該組織機能を担う人材の要件
②人材確保の計画と仕組みづくり
②-1 必要な人材の量
②-2 採用・配置・育成施策
まず検討するのは「競争優位の確立および持続的成長に必要な人材(以下、タレント)」を明らかにすることである。そのよりどころとなるのは「自社のビジネスモデルにおける強みを支える組織機能」である。「強みを支える組織機能」が明確になれば「当該組織機能を担うタレントの要件」を抽出することができる。
次に、今、明らかにしたタレントが今後数年間のスパンでどの程度の人数が必要になるかを検討する。現時点でタレントが担うポジションの数を確認後、事業計画に基づき、今後数年間で当該ポジションがいくつ必要になるかを検討するのである。
そして既存のタレントの人数と突き合せれば、今後、計画的に確保しなければならないタレントの人数が明らかになる。
最後に、必要なタレントを確保するために採用・配置・育成それぞれの施策を組み立てていく。内部育成を通じてタレントを確保するのであれば、タレントの要件に沿って必要な経験を積ませるためのローテーションプランや、必要な能力を身に付けるための育成策を検討する。
また、外部の即戦力人材の採用を通じて確保するのであれば、要件を満たすタレントを引き付けるための採用施策や報酬パッケージの検討が必要であろう。