(3)日本人駐在員任期の短期化

 3つ目は拠点幹部を占める日本人駐在員が3、4年で交代してしまうことである。

 あらかじめ誤解のないようにお伝えすると、任期が短いと悪影響があるから長くするべきだ、ということではない。本人のキャリアパス、所属元の事情、さらには家族にまつわる事情などがあり、短絡的には語れないからである。

 ただ、現地では、海外生活・海外拠点での業務遂行に慣れるのに1年、拠点経営・オペレーションの実態把握に1年、改革や改善施策検討に1年。このように、あっという間に時間が過ぎてしまうという事実があり、改革・改善や後継者育成に割ける期間はそう長くない。

 さらに、人々が契約関係を通して仕事の信頼を築く欧米とは異なり、人間関係を通して仕事の信頼を築くタイやASEANの国々では、任期の短さが業務遂行へ与える影響は無視できない。

 人間関係が経営の重要な基盤となるために、経営者の交代が実態の可視化や改革施策の継続性を弱め、3歩進んでは2歩下がってしまう状態につながっている。このような状況下のため、日系タイ現地法人社長の間では「このままではタイ拠点の存続が危うい」という危機感が持たれている。

 こうしたことに対して、打開の糸口を考えると、拠点の付加価値を向上させることが必要なことは間違いない。

 しかしながら、日本本社・マザー工場が現地支援をする余力には限界がある。そのため、日本からの支援を最小限に抑えつつ、現地拠点としての自立化を目指していくことに次のステージがあると考えている。

 その姿とは、コストダウン一辺倒に陥るのではなく、高付加価値製品・サービスへ移行して先進国向け輸出を確保し、同時に現地・周辺マーケットを意識した地産地消という地の利を最大化させていくことにある。

 そのためには生産機能のマザー化や隣接周辺国との役割分担、現地を消費地として捉え、バリューチェーンの上流機能を強化することなどが挙げられる。さらには、消費地としての隣接周辺国を国ではなく、所得水準の全く異なる都市部と地方とに区別して捉えていくことが重要になってくるだろう。