重要性が高まっているバリューチェーン全体への貢献

 2020年1月、世界経済フォーラムは「ステークホルダーがつくる、持続可能で結束した世界」をテーマとして、第50回年次総会を開催した。そこでは、これまでのような株主への貢献を中心とした企業活動である株主至上主義ではなく、「企業は顧客、従業員、地域社会そして株主などあらゆる利害関係者の役に立つ存在であるべき」というステークホルダー資本主義への展開が主題となっている。

 この背景には、短期的な経済価値・事業成果の追求が、気候変動や格差の拡大など複合的な事象として現れてきていることがある。つまり、今、求められているのは気候変動による影響緩和に向けた環境価値向上と、経済格差による社会的弱者の包括に向けた社会的価値向上を目的として、バリューチェーン全体で関わる全ての人々を視野に入れた事業をつくっていく、ということなのである。

 バリューチェーン全ての人々への価値創出を重視する動きは、既にESG投資(Environment:環境、Social:社会、Governance:企業統治)として近年広がりを見せている。GSIA(Global Sustainable Investment Alliance)の調査によると、2018年時点での世界のESG投資額は3400兆円であり、2016年の調査結果との比較で34%増加している。

 また、2020年7月には電気自動車やソーラーパネルなどを販売する米国の自動車メーカーであるテスラ社が、トヨタ自動車を株式時価総額で上回ったと報道された。このことが両社の実態を正確に表しているとは限らないものの、少なくともテスラ社の「持続可能なエネルギーによる輸送手段の提供」や「エネルギーインフラの革命」といった非財務的価値の打ち出しが功を奏した結果だといえる。