ネスレの共有価値創造の意味

 最後に、自社の提供価値(経営目的)とバリューチェーンの変革を推進し続けている企業として、ネスレの事例を紹介したい。

 ネスレは自社の経営目的を「お客様のクオリティオブライフの向上に貢献する」と定め、栄養価値の向上を追求することで健康的なライフスタイルを支援し、社会への貢献を目指している。

 この経営目的に基づいてネスレが展開している商品は、ミネラルウオーターやコーヒー、ココア飲料など水資源が欠かせないものである。そのため、ネスレは自社のバリューチェーンを水資源という領域で捉え、特に消費段階と生産段階について社会課題の明確化と施策展開をしている。

 日本国内では水資源の枯渇を意識しないかもしれないが、世界的には水資源の需要に対して供給が間に合わなくなることが予測されており、水資源の過剰消費や水質汚染は事業リスクなると捉えられている。

 それを受けてネスレは、生産工程における省資源化に加えて、衛生的な水資源にアクセスできない地域におけるインフラ整備、水資源へのアクセス提供を支援している。

 だが、これは事業リスクの回避のためだけではない。地域住民の衛生環境、健康状態の改善や生活水準の向上という社会貢献活動となることに加え、長期的にはネスレ商品の購買・消費者となることによる経済価値にもなるというサイクル構築をつなげているのである。

 水資源はコーヒー豆などネスレ商品の原材料生産にも欠かせない。ネスレは生産段階において、零細な生産者に対して高収量の苗を供給し、栽培指導をすることにより収穫量・品質向上につなげることで、生産者の生活水準改善の取り組みも実施している。これは同時に責任ある調達として原材料の品質・価格の安定化や、ブランド力強化にも寄与している。

 このようなカタチで自社らしさを追求し、社会課題をバリューチェーンに基づいて全体的に捉え、実行することが、経済価値と社会的価値の同時創出の実現につながるのである。

バリューチェーンで変革する

コンサルタント 大野晃平(おおの こうへい)

生産コンサルティング事業本部 プロダクションデザイン革新センター
コンサルタント
環境省 地球温暖化防止コミュニケーター

入社以来、製造業・農林水産業における現場の生産性向上を主軸に中小企業における収益改善のコンサルティングを行っている。近年では、食品業界を中心に、農作物の栽培・出荷から食品製造での調達・出荷物流まで、フードバリューチェーン各所で幅広く生産性向上・コストダウンによる収益貢献支援、持続可能な経営実現に向けたSDGsビジョン 策定・実行支援を推進している。