もちろん、だからといってコロナ禍の経済への影響を楽観視して良いわけではありませんし、ましてや、まだ実現されていないIT化・デジタル化の成果を成長予測や歳入予測に織り込むといった「取らぬ狸の皮算用」は禁物です。
また、欧州人が南米に持ち込んだ感染症によりアステカ文明・インカ文明が滅亡した際、欧州に持ち帰られた大量の銀は荘園領主の経済力を削ぎ、経済の担い手を大きく変えました。このことを踏まえても、今回のコロナ禍を受け、その後の各国経済には、感染症への対応やデジタル化への取り組みいかんにより、パフォーマンスにかなりの差が生じてくる可能性も考えられます。
例えば、世界的なレストランの予約サイト“Open Table”のデータから各国のレストラン予約件数(前年比)をみると、感染拡大を比較的抑え込んでいる豪州ではレストランの予約が堅調である一方、抑え込みに苦闘している国々では、行動制約を解除するとレストランの予約が急増し、その後の感染再拡大を受けて再び行動制約を課す、といった動きを繰り返しているケースがみられるなど、昨年3月から4月頃の状況に比べ、国によりパフォーマンスがかなり異なってきています。
日本としても、今回のコロナ禍を契機に、長年踏み込めなかった企業慣行や取引慣行などにようやく踏み込めた部分も数多くあったわけですし、課題も多くあぶり出されました。この機会を活かし、IT化・デジタル化の遅れを一気に取り戻し、人々の利便性向上や経済の発展につなげていくべきでしょう。
◎山岡 浩巳(やまおか・ひろみ)
フューチャー株式会社取締役/フューチャー経済・金融研究所長
1986年東京大学法学部卒。1990年カリフォルニア大学バークレー校法律学大学院卒(LL.M)。米国ニューヨーク州弁護士。
国際通貨基金日本理事代理(2007年)、バーゼル銀行監督委員会委員(2012年)、日本銀行金融市場局長(2013年)、同・決済機構局長(2015年)などを経て現職。この間、国際決済銀行・市場委員会委員、同・決済市場インフラ委員会委員、東京都・国際金融都市東京のあり方懇談会委員、同「Society5.0」社会実装モデルのあり方検討会委員などを歴任。主要著書は「国際金融都市・東京」(小池百合子氏らと共著)、「情報技術革新・データ革命と中央銀行デジタル通貨」(柳川範之氏と共著)、「金融の未来」、「デジタル化する世界と金融」(中曽宏氏らと共著)など。
◎本稿は、「ヒューモニー」ウェブサイトに掲載された記事を転載したものです。