連載「ポストコロナのIT・未来予想図」の第33回。新型コロナウイルス感染症の拡大は、経済、行政、社会活動などさまざまな面で、世界のデジタル化に大きな影響を及ぼしている。元日銀局長の山岡浩巳氏が解説する。
新型コロナウイルス感染症の拡大は、各国の経済に大きな爪痕を残しています。経済活動は人と人との接点から生まれるものですので、感染症拡大抑制のために人間同士の物理的な接触を制限すれば、経済に影響が及ぶという「トレードオフ」は避けられません。実際、2020年中、主要国の中でプラス成長を実現できたのは中国だけであり、それ以外の国々の成長率は、軒並み大幅なマイナスとなりました。
しかし、その一方で各国の株価は急速な回復および上昇をみています。この点についてはさまざまな見方がありますが、代表的なものとしては、「各国で巨額の財政出動が行われ、民間の購買力として蓄積されているため、これが株式投資も含め、何らかの形で支出に回ることが織り込まれている」といった見方が挙げられます。あるいは、「感染症拡大が各国でデジタル化を加速させており、その成果を株価が先取りして織り込んでいる」といった見解も多くみられます。株価上昇の原因を科学的に特定するのは常に困難ですが、現実にはこれらの要因が複雑に絡み合っているとみるべきでしょう。
もちろん、新型コロナウイルスに対するワクチンが1年弱という短期間のうちに開発された背景にも、情報技術の進歩が大きく寄与したわけですが、以下ではより広く、コロナ禍がIT化やデジタル化に及ぼした影響について、整理してみたいと思います。