連載「ポストコロナのIT・未来予想図」の第32回。世界に先駆けて、中央銀行が発行するデジタル通貨についての研究を始めたスウェーデン。その検討は、かなりじっくりと時間をかけながら進められている。その背景について元日銀局長の山岡浩巳氏が解説する。
「中央銀行が発行するデジタル通貨」(CBDC)といえば、今、世界の関心は中国の「デジタル人民元」に集まっています。中国はデジタル人民元の検討を急ピッチで進めており、昨年(2020年)4月には国内4都市での試験的発行を開始しています。報道やインターネットでは、中国の人々が現実にデジタル人民元を使って買い物をしている映像が流れています。
しかし、世界で最も早くから中央銀行デジタル通貨の検討を本格化させたのは、北欧のIT先進国、スウェーデンです。
筆者も2019年秋に当地を訪問し、中央銀行の元同僚たちからその取り組みについて聞いてきましたが、スウェーデンの実情を十分に踏まえた着実な検討を進めていることが印象的でした。
デジタル決済大国スウェーデン
スウェーデンが世界に先駆けて、一般の人々が日常の買い物などに使える、中央銀行が発行するデジタル通貨(一般利用型中央銀行デジタル通貨)の研究を開始した背景には、「現金の急速な減少」という明確な理由がありました。
もともと現金の少なかったスウェーデンですが、2008年前後から現金の減少テンポが一段と加速しています。いったい何が起こったのでしょうか。