連載「ポストコロナのIT・未来予想図」の第26回。「デジタル」と並んで今やバズワード(流行語)となっているのが「グリーン」だ。両者は今後、ますます関係を深めていくことが予想される。元日銀局長の山岡浩巳氏(フューチャー取締役、フューチャー経済・金融研究所長)がデジタルとグリーンの関係を解説する。
このコラムで一貫して取り上げてきた「IT」「デジタル」と並んで、今や大流行語となっているのが「グリーン」「ESG投資」「SDGs」です。今や、これらの言葉を報道で目にしない日はありません。
そして、これらは今後、デジタルとますます密接に関わっていくと予想されます。
もちろん、デジタル化はそれ自体、紙の削減など「グリーン」と親和性が高い面があります。しかし、より重要なのは、グリーンやESG投資、SDGsの課題を克服していく上で、デジタル技術の貢献が大いに期待されるという点です。地球という複雑系を考えれば、これらの施策を有効なものとしていく上で、デジタル技術による支援は不可欠と言えるでしょう。
「グリーン」の評価
これらの施策がまず直面する課題は、「グリーンやESG、SDGsと喧伝されている各種の取り組みが、本当に地球のために役立っているのか」をいかに検証するのかという問題です。現在、「地球に優しい」「エコ」などを単に資金集めや販売促進のための宣伝文句として濫用する「グリーンウォッシング」(green washing)と呼ばれる行為が、世界的に問題になっています。この中で、世の中に溢れる「グリーン」の真の効果を評価することが、ますます求められています。
例えば、最近話題の「水素」について、「燃やしてもCO2を出さない」「宇宙で最も多い元素」といった宣伝文句が頻繁に使われています。しかし、水素は単体の水素分子(H2)としては地球上に天然の状態ではほとんど存在しませんので、まず、何らかのエネルギーを使って、新たに水素分子を作らなければなりません。この点は、既に生物の力で何億年もの年月をかけて太陽エネルギーを炭素化合物の中に取り込んでいる石油や石炭と異なる点です。この意味で、水素はあくまで、エネルギーを運ぶ「媒体」と捉えるべきであり、水素自体を燃やす段階でCO2を出さなくても、水素を作る段階でCO2をたくさん出すのでは意味がありません。水素の利用が全体として、これを利用しない状況に比べて地球環境に寄与しているかどうか、包括的に検証する必要があるわけです。このような検証は、LCA(Life Cycle Assessment)と呼ばれています。